16 夏
「ひさくん、待ってるね、」
私の手には2つのスマホがある。
一つはいつもの。
もう一つは一度時間が止まってしまっていた昔のスマホ。凛さんからさっき返してもらった。でもね残っているのは連絡先がたった一つ。
今はそれだけしかいらないのだから。
裏山の階段を全速力で駆け上がる。
途中、人が混雑していたが、今は早く会って確かめたい。
早く、早く。今はそれだけを考えて、
いつもは苦しい階段は今日は楽に感じられる。
彼女に。会いたくて。
山頂の展望台は人影が無くうっそりしていた。
展望台なのにここまで来るためには上がってきたこの階段を登りきる必要があり人は来ない。
だから小さい時は子供の元気さもあってかここまでわざわざ来て花火を見ていたものだ。
「やっぱり、来てくれると思ってた。」
後ろの方から声がして振り向いてみるとそこには狐の仮面を被った少女が一人、優美にたたずんでいる。
あの時と同じ、あの日々と同じ。アイツはいつも俺にバレないようにこっそり現れた。
顔は見えなくてもたたずまいで会長だとはわかる。
でも今はもう会長ではない。いや、本当は前からわかっていたのかも知れない。が現実が頭の中を離れなかった。
「道久君、
コン、コン! なんちゃって。
ほら、そんなに硬くならないで花火大会なんだからもっと楽しんでください」
そんなこと言われても、俺には彼女に話したいことが沢山ある。
「…、顔を見ていい?」
「ちょっとだけ待っててもよろしいですか?
心の準備が
後ろ向いててください。」
「お化粧、汗で滲んでいる。仮面なんて演出要らなかったような気がします。」
「…、今はそんなことは、」
俺は彼女の方を振り向こうとした瞬間、その場を照らしていたLED電球の灯火が消えた。
「アレ?電気消えちゃいましたね、ちょっとだけ、あと狐の仮面をとれば…ふひゃい、‼︎」
少し仮面の顔の隙間ができたところに虫が入り込んできた。
思わず驚いて一瞬足元のバランスを崩す。
仮面で視界が失われた状態。いつもとは違う服装で思い通り立て直せない。
受け身を取ろうとしたら瞬間、彼に支えられた。
「千夏、だよな。大丈夫か?」
そこにはあの時と変わらぬ彼の顔があった。やっぱり成長してて逞しさ何ました今の方がもっと好きだ。
「ありがとう、ひさくん。」
彼女の久しぶりに見た表情はにっこり元気そうで、サングラスの下に隠されていた瞳があらわになる。
今はなんて声をかけたら良いかわからなくて、でも彼女にもう一度会えたことに対して俺はいったいどんな表情をしているのか。
「千夏、お前は、」
そのあと俺の言葉は豪快なヘリの音によってかき消された。
展望台に無理矢理、横付してボバリンクするヘリ。
中から凛さん、何でてくる。
「あら、ごめんね邪魔した?」
「凛さん、約束と違うよ、もう少しだけ、」
「今はそんなこと言ってられないの千夏。
早く二人ともヘリに乗ってちょうだい。
急用だから今回の任務は。
誰かさんが電話に出ないからあんたらしかいないのよ。子供に仕事させて、副の自覚ないのかしら」
その誰かというのは今、現在進行形で河川敷でて酔っ払っていることは伏せておこう。
ヘリは乗り込むのすぐに急上昇してあっという間に空の上に着く。
「凛さん、刀はあるの?私は手ぶらで来たんだけど…」
「ご心配なくとも、対物用零式刀がここに、」
おいおい、なんだよその中二病臭い名前の武器は。
ツッコミどころがありすぎたが、二人とも至って真面目なので今は黙っておこう。
「で、そこのレーダー見たら、なにかこっちに来るみたいだよね。それを私が両断しろってことかしら?」
千夏の目線の先にはレーダーが表示された端末があった。
「今から来るのは戦闘機だ。でも旧式のソ連時代のものだからたいしたことはないだが、」
「だが?」
「ここを越えて市街地に出る前に仕留めなきゃいけないということと、大規模な軍事作戦は国家のリスクが高すぎると判断したため、小規模にピンポイントで迎撃したい。
だから、よろしくお願いします。」
凛さんは千夏にこれでもかという誠意を示した。
マナは相変わらず冷静、でもどこか笑ってるような気がした。
「いいよ、私がしなくちゃいけませんよね。」
「ありがとう、千夏。なんでも言うこと聞くわ。正直上からの圧があったんだけどダメ元でお願いして良かった。最悪、空軍使うつもりだったから、…うぅ、千夏苦しい」
千夏は凛の話を遮り口を思いっきり塞ぐ。
「言っとくけど凛さん。私怒っていますからね、途中で邪魔したことについて、
今回のつけはお高くなりますよ。なので、あのお願い、上層部に通していただけるよね?」
彼女のその時の笑顔は喜びというよりかは怖さを感じた。
赤い瞳がより際立たせていた。
凛さんは頷く。
「よし、ひさくん。これお願いします。」
渡されたのは狐のお面。
それはさっきまで着けていた時には気づかなかったが手作りのお面だった。
「昔、のやつ大事にとっておいてよかっです。」
それは俺が作ったあまり、上出来とは言えないもの。
でも、こんなものでも千夏は大事にとっておいてくれた。
「別にこんなもの持っていなくても…」
千夏は首を横に振る
「いいえ、こんなに私にとって大切なものなんてないのですから。」
千夏の、顔は少し赤い。
「おい、来たぞ。早くしろ。」
「言われなくても凛さん、やりますから。」
ヘリの扉を開けて目視でターゲットを捕捉する。
思っていたより高度があっていない。
これでは高さが足りない。
「ヘリの高度を上げて、早く」
操縦士たちが戸惑う。
「あの、お言葉ですが神 (千夏)隊長、
お二人方と私らは大丈夫ですが、そこの少年がこの、急上昇による気圧変化に耐えれとは…」
操縦士二人はスーツまでバッチリで対策されているし、例外二人は大丈夫だと認知度されているので大丈夫として、俺は確かに危ないのでは?
でも、今は時間がない。
「あの、俺は大丈…夫、」と言おうとしたら
「あ?、コイツ。大丈夫大丈夫。ゴリラ兄貴の息子だから。心配すんなって、ほら高度上げな」
凛さんに遮られてしまい、なんか言われてしまった。
操縦士はおれをマジまじと見てからヘリを急上昇させた。
あっという間に雲の上に、酸素が薄い、というかほぼない。
東の方角真正面から銀色の物体が接近している。
俺が目視で捉えたと思った瞬間、彼女は飛び出していた。
そして胴体は真っ二つに切る。
その間だけは時間が遅く感じられた。
そのあとの行動は俺の反射運動みたいだった。
彼女を助けたくてとか、思っていたのかも知れない。
「おい、あのバカお前は生身だろうが」
戦闘機だったものは海に落下。
千夏はヘリから飛び出した彼に抱き抱えられたまま…
「もう、びっくりしたじゃない。」
彼女の顔は驚きそのもの
「別に助けなくて良かったのに、私一人で降りられますよ?」
「ごめん、遂、反射で。また、いなくなるんじゃないかと思って」
そうじゃないと俺はここまでしなかった。
千夏はどこか嬉しそう。
「まあ、いいですよ。上から二人で見る花火もロマンチックでもいいですし。」
下には今ちょうど始まったばかりの花火が打ち上がっていた。
千夏の、顔がほんのり花火で照らされていた。でもその頬の赤みは消えることはなかった。
地表までのほんの数十秒間だがその時間は長く感じられた。
「着地は私任せなのがなんだかな…」
パラシュートも持ってきてない俺は申し訳なさそうに笑った。
千夏も、同じく笑っていた。
「千夏?てか、いつまでその口調なんだ?俺にはバレてるんだから俺の前だけでも、元に戻したら…」
「特別なあなただけですよ、
ウ、ウウン…
ひさくん、」
軽く咳払いしたあと彼女の澄んだ目をあわせてきて、何かを決意したあと…
彼女の唇は頬に当たった。
「大好きだよ♪、これは私のファーストキスだから」
彼女の笑顔は花火に負けないぐらい輝いていた。
ちょっと域すぎているように思って、照れ臭くて、
「千夏、別にそこまでとは…」
「うん?いつも通りだよ。私は、神千夏は、ひさくんのことが好き。
前も、今も。」
元に戻った、元パートナー兼幼馴染の思いは俺には強すぎたみたいだった。
そんな中、ヘリの中では一人落ち込む姿が。
「あーあ、千夏と約束したこと、どうしよう、
世界初の人と機会の融合兵器が一人の少年に恋してます。って米軍に伝えて、軍事協力を撤廃する。なんて言うの、考えるだけで胃が痛い。」
そもそも、千夏に嘘ついて、道久に正体を隠しとけって初めての方に脅したのも、もし千夏が仮に結婚でもしたら、最強兵器が一人の人間によって掌握されたと、各国の軍から追及されて立場が危うくなるからなんだよな、。
はぁ、頑張るか.…。