15浴衣美人と見る花火ほどいいものはない
もう、暑くて死にそう。
最近は最高気温40℃なんて平然と超え、熱中症警戒アラートなんて何日続いているかわからない。
なんで俺はこんな暑い中残業をしているのか。
労働組合に訴えたいが、あいにくこっちは公務員と言う枠なのでそれも叶わない。
それと会長に突き放されてしまい、あれから数日たったが一度も敢えておらず、なんだか後残りが悪い。
スマホの時計を見ると午後5時をまわっていた。
ついでに理央からメッセージが届いていることに気づく。
みっちゃんへ、
午後6時に花火一緒にいこう^_^
そういえば今日は花火大会の日だと気づく。
去年も一昨年も理央といってた気がした。
その前は、…。
思い出しても切なくなるだけかもしれない。
いつも同じ場所でも見た花火。
でもそこにはもう彼女はいない。
仕事は明日の自分に任せるとして、行きますか。花火。
俺は理央の家に向かったが、理央の部屋には鍵が掛けられていなかった。
そのまま中に入ってみると理央とマナの声が聞こえてきた。
「理央〜?きたぞー。お邪魔してるからな、」
声を出してみたが返事がない。
二人の親しげそうな笑い声が俺の声を遮断する。
仕方なくリビングの扉を開けるとそこに二人はいた。
でもその格好はいつもとは異なり華やかなで可愛らしい浴衣姿の二人だった。
「あ、みっちゃんきたきた、
どうしたの固まっちゃって?」
「道久君どうしたの?もしかして私たちに見惚れてた?」
二人は俺が動揺していることにニヤニヤ嬉しそう。
「みっちゃん、惚れっちゃったか。この私の魅力にやっと、気づいてくれたのかな?」
理央も可愛いがマナも同じぐらい似合っていた。
「どっちも良くて思わず、ごめん取り乱した。」
「そこは私だけって、言うところだぞ、」理央からデコピンを喰らってしまった。
「有栖川も似合っているし…」
マナから嫌そうな視線が向く。
ほら、"下の名前"でしょ。
と言わんばかりの表情。
「マナも似合ってるよ。」
マナは嬉しそうに満面の笑み。
ちなみにマナの浴衣は新品なので誰が払ったかと言うと、もちろん俺の給料。なのだが、マナのためと思ったら安いものだ。
少しでもマナには楽しんでもらいたいし…。
「よーし、みっちゃん。
祭りに行くぞ〜」
「オー!!」
理央とマナは楽しそうにはしゃいでいる。
会場に近づくに連れて人通りは多くなり、混雑していた。
花火を見るために朝早くから陣取っている人も多く、まともに座って休めるところなんて無さそうだ。
年に一度だけとはいえ、人が多すぎやしないかと思っているが、俺もそのうちの一人なため何も言えない。
花火会場は河川敷に面していてその後ろには小山があり、その周りにはたくさんの屋台が並んでいた。
射的屋の前で理央何こちらを呼んでいた。
「みっちゃん、見て見て、、
1発目、あ?!
2発目、え?
3発目、4発目、5発目
ん〜、あああああ、、、残念」
「毎年、見ているような気がするな、」
「ここの銃、絶対イカサマしてるもん、
私がミスるわけないはずなのに…もう。」
これもいつも通り、
「理央のそれはもう聞き飽きたな、」
ちなみにここはマジでイカサマしてるかのように、おれも当たったことがない。
そう思ってたら珍しく弾がまっすぐ飛び出して景品に当たる。
「え、マジ?」
落ちたのは子供向けのヘアブローチ。女の子向けだと思うがこのご時世そんなことは言えないけど俺には必要ない。
「みっちゃんすごーい」
「でも狙ったものとは違ったけど。」
そしたら店主から
「それは結構当たりの方だそ、金属製のかなり高めのだな。」
こんなものが高いのか怪しかったけど、
どっちでもよかった。
「え、もしいらないなら私が、」理央が言い終わる前に
「二人とも何してるの?」
マナが片手に焼きそば、もう一方にイチゴ飴を持って口はモゴモゴしている。
「ハハ、マナちゃん食いしん坊。そんなにいっぺんに買わなくても、」
「マナ…お前は買い食いしすぎだ、ゆっくりだべろ」
マナは顔を赤らめて
「そんなことないもん。
あ、ちなみにベビーカステラも買ってきたけど食べる?」
マナは俺たちが思っていた以上に食い意地があったことを今日初めて知れた。
「あ。そうだマナちゃんも射的する?」
「腕には自信ないけどやる。」
「道久君、これお願い。」マナから両手学校塞がるぐらいの食べ物を受け取り、マナは銃を構えた。
パン、なんと一発目で射抜いた。
落ちたのはかなり値がつきそうなカード。
「うーん、私これいらないかも。」
「マナ?よければ商品交換しないか?俺はこのブローチいらないから」
「え、いいの。私はそっちの方がいいなぁ、」
マナの、カードとヘアブローチを交換した。
マナは早速つけてみて「えへへ、」
嬉しそうだった。
「みっちゃん、マナちゃん。
お姉ちゃんが花火ので見る場所確保していてくれているから、そっちに向かおう?」
師匠がとっていてくれたのはありがたい。
いざとなったらとっておきの場所で花火を見ようと思っていたけれども、なんとかなったならそれでいい。
正直こんな人混みの中で立って花火を見るなんてごめんだからな。
待っていてくれた師匠のところに行くと
一足先に酔っ払っていた。
「ウェーい、みんな来たな。
私に感謝しろよ。仕事ので合間に抜け出してきてとっておいたのだから。」
それはそれでどうかと思うが、
後から凛さんから苦情が入るかも知れない。
「お姉ちゃんありがとう!マジ感謝してます。」
「いいの、いいの。可愛い妹のためならこのくらい。ゲフゥ、」
そのまま横になってしまった。
「お姉ちゃん、酒はほとほどにね、後、私を酔わせないでね。」
返事はないが。夢の中で頷いていそうだった。
「はい、マナちゃんここ座って。ジュースとかもあるよ!何かにする?」
「私はオレンジジュースで、」
ブー、ブー。
俺のスマホに電話がかかってきた。
何気なくスルーしよう思っていたが、それはできなかった。そこにある名前を見て。
向こうから聞こえた声はほんの一瞬だけ。
でもその声だけで十分だった。
「みっちゃんは何にする?飲み物」
理央が聞いてきたが、そんなこと今はどうでもいい。
「ごめん、理央。今はいらないや。
後ちょと急用で離れるわ。
花火が始まるまでには戻るから」
「あ、うんわかった。」
彼が走り出していく後ろ姿があった。
「みっちゃん。」
二人プラス泥酔者が残された。
「どうしたんだろ道久君?」
「さあ?何かあったんじゃない?
よくあることだし。」
そっか理央ちゃんにとっては道久が任務とかでよくいなくなることが当たり前なのか。
でも、道久がどこで何をしているのかは知らない。はず。
だから余計に消えていく幼馴染のことを不安に思う思うかも知れない。
「ねえ、マナちゃん。
みっちゃんのこと心配?」
「え、。」心配、と言われても。多分、理央とは別の意味で心配に思っていることはあると思う。
「私はね、心配だよ。みっちゃんがいつ私の側からいなくなるのかが、
でもね、それは仕方ないのかも知れない。
私の罰だから。それが一種の償いなのかも知れない。」
理央の話はどこか飛躍しすぎていてこの時はまだ理解できなかった。
でも次に言ったことは確かに明確な彼女の本心であることはわかっていた。
「マナちゃん、あのね私…」