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セイクリッドボーダー -銀光の誓約-  作者: デイジー
第1章 騎士団入隊編
8/23

第8話「紅葉れる森の影」

ルーネル村を発った初日の昼過ぎ。

カムイとリアンは、村はずれの道端で荷馬車を

停めている一人の男を見つけた。

男は丸い帽子を目深にかぶり、革袋の中身を確かめながら、独り言のようにため息をついている。


リアンが声をかけた。

「こんにちは。王都まで行くんですか?」

男は顔を上げ、二人を一瞥すると、にやりと口元をゆるめた。

「おう、そうだが……君らも王都か?」

「ええ。できれば一緒に行けたらなと」カムイが答える。

「俺はベネット。行商人だ。荷馬車は一台きりだが、歩きなら同行しても構わん。道中、護衛代わりになってくれるなら、なお助かる」

ベネットはそう言って手を差し出した。


リアンが笑顔でその手を握る。

「護衛ならお任せください!」

カムイも軽く頷き、握手を交わす。

「よろしくお願いします」

こうして、三人の旅は始まった。



二日目の夕刻。

荷馬車のきしむ音と、馬の蹄が土を踏む音だけが、紅葉に包まれた森の中に響いていた。

ベネットは御者台に座り、木々の間を鋭い目で見回している。

「王都まではあと三日ってところだが……この森を抜けるまでは気を抜くなよ。最近、物騒でな」


リアンが首をかしげる。

「物騒って……盗賊ですか?」

「ああ。『赤狼団』って名の連中だ。群れで動き、商隊を襲う。命までは取らんが、金目の物は容赦なく奪っていく。俺も一度やられたことがあってな……」


カムイは御者台のすぐ後ろを歩きながら、腕を組んだ。

「そういう連中がうろついてるなら、護衛を雇わなかったんです?」

「雇えるなら雇ってるさ。だが今年は不作続きでな、雇う金がなかった。それに……」

ベネットはちらりと二人を振り返り、口の端を上げた。

「腕の立ちそうな若者が二人も一緒なら、護衛はいらんだろう?」


リアンは胸を張り、笑みを浮かべる。

「もちろん、任せてください!」

「……まあ、やるだけやります」カムイは苦笑で応じた。


その時――

森の奥で、カサリと葉の擦れる音がした。

 ベネットの手が手綱を引き、荷馬車が止まる。

夕陽が木々の間から差し込み、影が長く伸びる。

リアンが腰の剣に手をやり、低く呟く。

「……気配がある」

「二人分だな」カムイの声も低い。


影から、一人の男が現れた。皮鎧に刃こぼれした短剣。唇に不敵な笑み。

「旅の荷馬車か……運が悪かったな」


男は短剣を抜き、一直線にカムイへ飛びかかる。

刹那、カムイは踏み込み、相手の腕を受け止めた。鋭い金属音が響き、短剣がはじかれる。

「ぐっ……!」

男がよろめいた瞬間、カムイは肩口に拳を叩き込み、男は膝をつく。


背後の茂みから別の気配が動いたが、そいつは森の奥へと消えていった。

「逃げた……もう一人いたな」リアンが悔しげに吐き捨てる。

「仲間を呼びに行ったかもしれない。急ごう」カムイは短剣を蹴り飛ばし、ベネットへ振り返った。


「お、おい……本当に助かったよ。あんたらがいなかったらどうなってたか……」

「まだ安心できません。森を抜けるまでは警戒を」


沈む夕陽が森を紅く染め、その影の奥で、何かがこちらを見ているような感覚がカムイを捉えた。

それは、旅の先に待つ試練の予兆のようだった――。

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