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第5話「蒼き閃光」

 村の広場に、甲高い悲鳴と獣の唸り声が

響き渡った。

土埃の向こうから、漆黒の毛並みを揺らしながら

影猟犬が現れる。

赤い眼がぎらつき、牙からは涎が糸を引いていた。


「こっちだ! 急げ!」

ガレスの声が飛び、村人たちが一斉に家へと

駆け込む。

セリナは幼い子どもを抱え、もう片方の手で

少女の腕を引きながら走った。

「カムイ、あんたも早く!」

その叫びに振り返ったカムイの目に、

別の光景が映った。


広場の端で、老人が腰を抜かして座り込み、

影猟犬が低く唸りながら距離を詰めていた。


「……っ!」

考えるより先に、足が動いていた。

背後で父の声が響く。

「戻れ、カムイ!」

しかしその声は耳の奥で遠ざかり、

全身がただ一点に向かって突き進む。


手にしていたのは、避難誘導のために握った

木製の棒。

それを振り上げ、影猟犬の牙を受け止めた瞬間

――衝撃が腕を突き抜けた。

棒が軋み、全身が後ろへ弾き飛ばされる。

肺から息が抜け、地面が背中を叩く。


視界がぐらりと揺れた。

再び飛びかかってくる影猟犬。

その牙が目の前まで迫った、その瞬間――。


──音が、消えた。


風の流れが、砂埃の舞いが、ゆっくりと形を変える。

胸の奥から、何か熱いものが込み上げてきた。

淡い蒼光が視界を包み、肌の上を滑るように走る。


気がつくと、身体はもう動いていた。

地面を蹴り、獣の横腹へ回り込む。

振り抜いた棒が、骨を打つ鈍い感触を伝え、

影猟犬の体がぐらりと崩れる。


次の瞬間、鋭い剣閃が視界を裂いた。

「はっ!」

ガレスの刃が獣の首筋を捉え、動きを止める。

赤黒い血が土を濡らし、風が再び音を取り戻した。


「……今の動きは……」

ガレスがカムイを横目で見たが、何も言わず獣の

死体に視線を戻す。


「カムイ!」

駆け寄ってきたセリナが、腕や顔を素早く確認する。

「擦り傷だけか……ほんと、無茶するんだから!」

怒りと安堵の入り混じった声に、

カムイは苦笑いを返す。

アイガスは黙ったまま息子を促し、

群衆から離れるよう導いた。


「お前……人間離れしてたぞ」

後ろからリアンの興奮気味な声が聞こえたが、

カムイは首を横に振った。

「あんな動き……覚えてないんだ」


その頃、広場の外れでバルドが黒く光る欠片を

拾い上げた。

「……水晶?」

ガレスがそれを手に取り、険しい表情で見つめる。

「王都に報告だな……これは放っておけん」


――その夜。

遠く離れたノクス・オーダーの拠点で、黒い水晶が脈動していた。

吸い上げられた魔力が、まるで心臓の鼓動のように闇の中で光を放っていた。

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