第21話「試練の牙」
鬱蒼と茂る山林を抜けると、不意に視界が開けた。そこは石を敷き詰めた広場で、巨石を積み上げたような壇の上に試験官が立っていた。冷ややかな眼差しで小隊を見下ろすと、彼は短く告げる。
「ここが二次試験の関門だ。通りたければ――守護獣を打ち破れ。ただし、“旗印”を失った時点でお前たちは失格となる」
背後に立てられた木製の旗が、風に揺れた。その一本を守り抜けるかどうかが、合否を分けるということらしい。
ラトが肩をすくめ、苦笑混じりに言う。
「旗なんて、狙ってくれって言ってるようなもんだな」
「だからこそ、守る必要がある」
セリウスの声音は冷静だった。
「カムイ、旗はお前に任せる。最も“守り”に向いているのはお前だ」
カムイは静かに頷き、剣を握り直した。胸の奥で熱が広がる。(俺が、守るんだ……!)
試験官が合図を送ると、地面が震え、広場の中央に巨大な影が隆起した。
石を組み合わせて形作られた巨人――守護獣のゴーレムだ。鈍色の体からは重々しい気配が立ち昇り、眼窩に灯る光が不気味に小隊を睨んだ。
「こ、これを倒すのかよ……!」
リアンが思わず呻くが、次の瞬間には大剣を抜き、駆け出していた。
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戦端が開かれた。
リアンが正面から斬りかかる。しかし、振り下ろされた巨腕に受け止められ、押し返される。
「ぐっ……お、重てえ!」
ラトは影のように左右へ駆け、石の脚を切りつけて隙を探る。だが、ゴーレムの足払いが地面を抉り、あわや巻き込まれそうになる。
「ちっ……こいつ、動きが鈍そうに見えて鋭い!」
その隙を塞ぐように、ダリオが割って入った。
「下がれ、ラト!」
堅実な剣捌きで巨腕を受け流し、ラトを押しのけて守る。その重い一撃を正面から受けることは避け、角度をずらすようにして衝撃を逸らす技量は見事だった。
「助かった……やっぱり堅ぇな、ダリオ!」
「無茶するな。俺たちは連携で戦うんだ」
ダリオは派手さこそないが、一歩下がって仲間の隙をカバーする位置に徹していた。その動きが、小隊全体の戦線を安定させていく。
フィオナは杖を構え、呪文を紡いでいる。だが魔力を練り上げるには集中が必要で、詠唱は長い。汗が額を流れる。
セリウスは全員に指示を飛ばすが、自身も前線に立ち、隙を伺う。采配と剣を両立させるのは難しく、負担が重くのしかかっていた。
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その時、巨腕が旗へと振り下ろされた。
「やらせるか!」
カムイは飛び出し、剣を構えて正面から受け止めた。
轟音とともに衝撃が走る。足元が石畳にめり込むほどの重圧。しかし、カムイは膝を折らず、必死に踏みとどまった。
「俺は……守る!」
その姿に、仲間たちの動きが変わる。
リアンは再び突撃し、巨体の腕に斬り込んだ。
ラトは足を狙って走り回り、動きを鈍らせる。
ダリオは堅実な立ち回りで隙を塞ぎ、仲間を庇うように立ち回った。
フィオナは詠唱を完遂し、輝く魔力を杖の先に収束させた。
「今だ、撃て!」
セリウスの指示が飛ぶ。
光弾が放たれ、リアンの斬撃とラトの奇襲が重なった。石の巨人が大きく揺らぎ、最後にフィオナの魔法が胸部を撃ち抜く。
轟音とともに、ゴーレムは崩れ落ちた。
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*
重苦しい静寂を破り、試験官の声が響く。
「……合格だ。通れ」
仲間たちは息を切らし、互いを見合った。全身に疲労がのしかかるが、表情には確かな達成感が宿っている。
「やった……!」
リアンが笑い、フィオナは杖を抱きしめて安堵した。
「怖かった……でも、みんなとなら乗り越えられる」
セリウスは冷静に頷く。
「連携の形は見えてきたな。各々の課題もまだあるが……確かに一歩前進だ」
その傍らで、カムイは剣を強く握りしめた。
(守ることで……みんなの攻撃が生きる。俺は、この役割を貫く!)
広場を後にする小隊。その背後、森の奥では赤狼団の残党が潜み、試験を突破した彼らを監視していた。
「奴ら……やるじゃねえか」
低い声が闇に溶ける。さらにその影の奥には、ノクス・オーダーの黒い気配が漂っていた。
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