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セイクリッドボーダー -銀光の誓約-  作者: デイジー
第1章 騎士団入隊編
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第20話「試練の山道」

赤狼団との遭遇戦を終えた小隊は、険しい山道を進んでいた。緊張の余韻はまだ消えず、全員の呼吸は少し荒い。


「……これ以上、余計なことに気を取られるな」

先頭に立つセリウスが振り返り、きっぱりと言い放つ。

「我々は今、公式の試験中だ。赤狼団が紛れ込んでいたのは事実だが、任務は試験を突破すること。それを忘れるな」


その言葉に、全員が無言でうなずいた。


カムイは剣を握りしめながら、胸の奥で息を整える。

(……守り切れた。みんなを。けど……赤狼団がなぜここに? 不安は消えない。でも、考えるのは後だ。今は前に進むことが大事だ)



山道の途中、小隊は試験官と合流する。

黒衣を纏った試験官が淡々と説明を述べた。


「この山林ルートを三日以内に突破せよ。途中にいくつかの関門がある。小隊ごとに最低一度は試練を課す。旗印を掲げた状態で山を抜けた者が合格だ」


試験官は旗を差し出し、セリウスがそれを受け取る。

「……三日か。思った以上に過酷だな」


「そうでなくては意味がない」

試験官の短い言葉を残し、彼は林の中へと消えていった。



小隊は再び歩を進める。だが進軍の中で、それぞれの弱点が徐々に浮き彫りになっていった。


「よし、偵察は任せろ!」

先行して木々を駆け抜けるラト。しかし彼は独断専行しがちで、時に見えなくなるほど先走ってしまう。

「ラト、勝手に進むな!」セリウスの声が飛ぶ。


「うるせぇ、俺は大丈夫だ!」と軽口を返すが、その後で足を滑らせ、慌てて木の幹にしがみつく羽目になる。


リアンは力強く進むが、あまりに猪突猛進で息が荒い。

「はぁっ……まだ行ける!」と気合いを見せるが、誰よりも早く疲労を滲ませていた。


ダリオは無難に立ち回るものの、決断の場面では一歩遅れる。

「えっと、俺は……」と迷いを口にするたび、セリウスの采配に頼るばかりになっていた。


そしてフィオナ。彼女は魔法で仲間を支援できるが、消耗が激しく、表情にはすでに疲労の色が濃い。


「……ごめん、少し休ませて」

額に汗を浮かべるフィオナに、カムイは小さく首を振る。

「無理するな。俺が守る。だから、魔力はここぞという時まで温存してくれ」


フィオナの頬がわずかに赤らむ。

「……うん、わかった」



やがて、彼らの前に渓谷を跨ぐ一本の木橋が現れた。

板は軋み、下は深い谷。風が吹けば橋全体が揺れる。


「……これが試練の一つか」

セリウスが険しい目で橋を見つめる。


一人ずつ渡るよう指示され、ラトが先頭を駆け出す。

「へっ、こんなの楽勝だろ!」

だが急ぎすぎて板が軋み、身体が大きく揺れる。

「うわっ……!」


「ラト!」

カムイが即座に動いた。橋を駆け、彼の腕を掴んで引き戻す。

「落ち着け! 慎重に行け!」


「す、すまねぇ……」ラトが気まずそうに俯いた。


続いてフィオナの番。

「こ、怖い……」足がすくみ、震えて前に出られない。


「大丈夫だ、俺が前に立つ」

カムイは彼女の前を歩き、片腕で支えるように導く。

「俺を見てろ。足元じゃなく、前だけを」


「……うん」

フィオナは小さく息を吸い、カムイの背を追いながら一歩ずつ橋を渡りきった。


最後に全員が渡り終えると、小隊には安堵の笑みが広がった。



橋を越えた先の広場で、一行は休息を取った。


「互いの弱点はもう見えたな」

セリウスが焚き火越しに仲間たちを見渡す。

「ラトは先走るな。リアンは力を温存しろ。ダリオはもっと判断を恐れるな。フィオナは魔力管理を意識しろ。そしてカムイ……お前は守る力がある。だが、攻め急がぬよう心せよ」


仲間はそれぞれうなずき、反省を胸に刻む。


カムイは焚き火の炎を見つめながら拳を握った。

(俺は守ることで、みんなが前に進める。俺の役割は、それだ)


小隊は再び山道を進む準備を整える。


その夜、遠く離れた森の奥。

赤狼団の残党が焚き火を囲み、密かに息を潜めていた。

「やはり、この試験場に潜り込んで正解だったな……」

だが彼らの背後には、さらに濃い影が忍び寄っていた。


「ノクス・オーダーの指示はまだか」

重苦しい会話が交わされる。


カムイたちの知らぬところで、試験の裏に潜む脅威は確実に迫っていた。

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