第18話「仲間の絆と潜む影」
夜の帳が下りた宿舎の一室。
粗末ながら温かな灯りが揺れ、小隊の面々は木の卓を囲んでいた。一次試験突破を祝う、ささやかな食事会である。
「はーっはっは! 俺たちが一番強かったってことだな!」
リアンが豪快に肉を頬張り、胸を張る。
「強かったのは俺の索敵と裏取りのおかげだろう?」
すかさずラトが皮肉を飛ばす。
「なにぃ? お前がちょろちょろ走っただけじゃねえか!」
「走っただけ? じゃああの旗、誰が抜いたと思ってるんだよ」
互いに譲らず声を張り上げる二人を見て、ダリオが苦笑交じりに口を挟んだ。
「はいはい。じゃあ次の試験で証明すればいいだろ。どっちが本当に役に立つか」
場が和やかに笑いに包まれる。
セリウスは少し離れた椅子に座り、紙片にペンを走らせていた。
「……個々の力は悪くない。問題は連携。互いの長所を噛み合わせれば、十分に上位を狙える」
彼の冷静な眼差しは、仲間を観察する戦術家そのものだった。
そんな中、フィオナは手元のスープに手をつけず、ぼんやりと器を見つめていた。
「……」
その様子に気づいたカムイが、そっと声をかける。
「どうした? 食欲ないのか」
驚いたように顔を上げ、フィオナはかすかに笑った。
「うん……ちょっと緊張してて。次の試験、きっともっと厳しいんだろうなって」
カムイは真っ直ぐに彼女を見つめた。
「大丈夫だ。俺が守る。だから――信じて前を見ていこう」
一瞬、フィオナの瞳が潤んだ。
「……ありがとう。みんなと一緒なら、きっと乗り越えられるよね」
その言葉に、卓を囲む仲間たちが無言で頷いた。
小隊の絆は、確かに形になりつつあった。
⸻
翌朝。
王都訓練場に受験者たちが集められ、教官が二次試験の概要を告げる。
「課題は山林踏破。指定された地点まで小隊単位で到達せよ。評価は行動と協調性に基づく」
緊張感が一気に広がる。
支給品を受け取る場面でも、各々の性格が現れた。
ラトは荷を軽くまとめ、「斥候は身軽じゃなきゃ」と鼻を鳴らす。
リアンは余計な干し肉を詰め込み、ダリオに「また背負子が爆発寸前だな」と呆れられる。
セリウスは冷ややかに言い放った。
「持久戦を軽んじるな。無駄は置いていけ」
小さな口論や笑い声が絶えないが、それぞれが役割を自覚しているのが見て取れた。
⸻
その頃、山林の奥。
焚き火を囲む粗末な一団がいた。ぼろ布をまとい、野盗を装ってはいるが、その眼光は鋭い。
「連中は試験とかいう小競り合いに夢中らしいな」
「好都合だ。俺たちは“主”の命を果たす……牙は隠しておけ」
赤狼団の残党だった。
そしてその“主”の背後に、黒き教団――ノクス・オーダーの影があることを仄めかす言葉が交わされた。
偶然にも、その潜伏地は試験コースと重なっていた。
⸻
王都の詰所。
ガレスとバルドは報告を受けていた。
「また辺境で野盗まがいが出没したそうです。赤狼団の残党にしては散発的すぎますが」
バルドが鼻を鳴らす。
だがガレスは渋い顔で答えた。
「……いや、あれは野盗ではない。組織的な動きだ。背後に何者かが糸を引いている」
視線を窓の外へ向け、低く呟く。
「赤狼団は潰えてはいない。むしろ――これからが本番かもしれん」
⸻
出発の朝。
背嚢を背負い、武器を手にした小隊は山林へと足を踏み出した。
「全員で無事に帰ってきて、合格を笑い合おうね!」
フィオナが明るく言う。
「当然だ!」リアンが胸を叩き、ラトが苦笑する。
「お前が余計なことして足引っ張らなければ、な」
笑いながらも、それぞれの瞳には闘志が宿っていた。
その先に、偽装した赤狼団の影が待つとも知らずに――。
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