第17話「交錯する影」
「――以上をもって、一次試験・小隊模擬戦を終了する!」
訓練場に、試験官の力強い声が響き渡った。
土煙の中、剣を収めた受験者たちは荒い息を吐きながら互いを見やった。
勝敗はすでに決している。カムイたちの小隊は旗を守り切り、勝利を収めていた。
「やったな! 合格だ!」
リアンが剣を高く掲げ、声を弾ませる。
ラトも地面に腰を下ろしながら「ふう……生きた心地がしなかったぜ」と安堵の息を漏らした。
一方で、セリウスは淡々と前髪を払いつつ、仲間に視線を送る。
「確かに勝った。だが、守りが崩れていれば一瞬で旗を奪われていた。次に備えるべきだな」
その冷静な一言は、熱に浮かされがちな場の空気を落ち着かせた。
フィオナは小さく胸に手を当て、カムイの横顔を見つめる。
「……あの時、あなたが守ってくれなかったら、私は魔法を撃てなかった」
「……俺はただ、前に立っただけだ」
「それで充分よ。あなたがいてくれるから、私は勇気を出せるの」
カムイは言葉を失い、照れ臭そうに視線を逸らす。
守ることの意味――それが、彼女の言葉によって胸に静かに刻まれていった。
◆
模擬戦の結果発表が終わり、勝ち残った小隊には次試験への参加資格が告げられた。
その中には、あのライバル小隊の姿もあった。
「……へえ、なかなかやるじゃないか」
鋭い眼光を持つ青年――アルディスが、カムイに歩み寄る。
「だが次は、俺たちが上に行く。今日のように守り切れると思うな」
ミレイユはフィオナを横目で睨み、「支援魔法の精度……及第点ってとこね」と鼻を鳴らす。
フィオナは返す言葉を飲み込み、ただ背筋を伸ばして彼女を見返した。
さらにエリオットがセリウスを一瞥し、皮肉げに微笑む。
「采配は悪くなかった。だが、最後は運も味方したんじゃないかな?」
セリウスは微動だにせず、淡々と返す。
「勝敗に運は付き物だ。……ただし、その運を引き寄せるのも実力のうちだろう」
一触即発の空気が漂う中、試験官が「そこまでだ」と制止を入れ、受験者たちは解散を命じられた。
◆
訓練場を後にしたところで、数人の騎士が入れ替わるように現れた。
その中に――カムイたちは気づかないが――見知った二人の姿があった。
ガレスと、その部下バルド。
彼らは治安悪化の調査のため王都に滞在しており、この日は訓練場の模擬戦を視察に訪れていたのだ。
「ちっ、若造どもがやけに張り切ってやがったな」
バルドが眉をひそめ、尊大に吐き捨てる。
「血気盛んだけで、戦場じゃ役に立たんでしょうよ」
しかしガレスは険しい表情のまま、戦場跡に視線を向け続けていた。
「……そう断ずるのは早計だ。彼らは荒削りだが、確かに息が合っていた」
「はあ? あんな小僧たちが?」
「時代は移り変わる。いずれ、我らの代わりに剣を取る者が現れるものだ」
バルドは鼻を鳴らしたが、ガレスの言葉に反論はできなかった。
彼の胸には、若者たちの戦いぶりにどこか希望めいた感触が残っていたのである。
◆
その夜。
訓練場近くの宿舎に戻ったカムイたちは、再び顔を合わせていた。
誰もが疲れ果てていたが、不思議と口元には笑みが浮かんでいた。
「これで、次の試験に進めるんだな」
カムイの言葉に、仲間たちが大きくうなずく。
そして、フィオナがそっと口にする。
「……これからも、あなたを信じて戦うわ」
カムイはわずかに息を飲み、仲間たちを見渡した。
守るべきものがある。
その想いを胸に、彼は静かに拳を握りしめた。
――だが同じ頃、王都の片隅では別の影が蠢き始めていた。
治安悪化の調査を続けるガレスとバルドの背後に、不穏な噂と黒い動きが忍び寄っていた。
それは、カムイたちの未来に必ず交錯する“影”の始まりであった。
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