第16話「一次試験・模擬戦」
王都騎士団の訓練場に、緊張した空気が漂っていた。
一次試験の第二段階──戦闘員志望者による小隊模擬戦「旗奪取戦」が、いよいよ始まろうとしている。
「試験の目的は、ただ勝つことではない。互いの連携と役割を示すことにある」
試験官の声が響き渡り、ざわついていた候補生たちの視線が一斉に戦場へ注がれる。
カムイは剣の柄を握り締めながら、胸の奥にある言葉を反芻していた。
──「守りを徹底せよ」
出陣前にオルフェンから告げられた言葉だった。
観覧席。
そこに腰掛けるオルフェンは、静かに試合場を見下ろしていた。
「カムイには剣の才がある。だが、守りを知らなければ己を傷つけ、仲間を救うこともできぬ。ゆえに、今は守りに徹させる……」
彼の眼差しは鋭く、だがどこか期待を孕んでいる。
――笛が鳴った。模擬戦開始の合図だ。
敵小隊が勢いよく前進してくる。前衛二人が盾を構え、その背後から槍兵と魔法使いが控えている。正面突破を狙う、力押しの陣形。
「前方に三! 右斜めに魔導士一!」
真っ先に声を上げたのはラトだった。敏捷な彼が周囲を駆け、敵の位置を告げる。
「全員、旗から半歩も離れるな!」
冷静なセリウスの指示が飛ぶ。小隊は素早く持ち場へ散り、自然と陣形を固めていく。
カムイは前衛に立ち、リアンと肩を並べた。敵の視線が鋭く突き刺さるのを感じる。
「……守るんだ。皆を」
剣を構え、深く息を吸った。
最初の衝突は激しかった。敵前衛の槍が突き込まれ、リアンが咄嗟に弾く。
しかしその隙に、別の敵が後衛へ抜けようと回り込む。狙いはフィオナだった。
「きゃっ──!」
声を上げるフィオナ。彼女の指先に魔法陣が揺らめくが、恐怖に身体がすくみ、発動が遅れる。
その瞬間、カムイが踏み込んだ。
「俺が守る! 撃て、フィオナ!」
背中を預けるように前へ出て、敵の剣を受け止める。火花が散り、重圧が腕を痺れさせた。
「──っ……わ、わかりました!」
必死に息を整えたフィオナが、勇気を振り絞って詠唱を解き放つ。
眩い閃光が走り、敵兵を弾き飛ばす。
カムイとフィオナの視線が交わる。そこに言葉はなかった。
ただ、「信じてくれた」「信じられる」──その想いが二人の胸を熱くした。
「いい連携だ! このまま押し返せ!」
セリウスの声が全員を奮い立たせる。
敵の剣を受け流すカムイの動きが次第に変わっていく。
ただ耐えるだけではなく、衝撃をいなし、隙を見つけては反撃を繰り出す。
「……これが、守りから繋がる攻め……!」
新たな感覚に震えながらも、次の一手を繰り出す。
戦況は小隊に傾いていた。
やがて、敵小隊は最後の突撃に出る。前衛が同時に突っ込み、後方から魔法が重ねられる。
「全員、カムイを中心に防御を固めろ!」
セリウスが的確に采配を下す。
カムイは皆の盾となり、剣を振るい続けた。
「……俺は絶対に、守り抜く!」
その背を見つめ、フィオナの胸に強い想いが込み上げる。
「私……あなたを信じる!」
彼女は両手を掲げ、渾身の魔力を解き放った。轟音と閃光が戦場を覆い、敵の突撃を呑み込む。
光が収まった時、敵小隊は地に伏していた。
試験場に静寂が訪れ、やがて審判の声が響く。
「──勝者、カムイ小隊!」
歓声が上がる中、カムイは大きく息を吐いた。剣を収め、振り返ると、フィオナが安堵の笑みを浮かべていた。
二人は短く頷き合う。言葉以上に、信頼がそこにあった。
観覧席のオルフェンは目を細め、静かに呟く。
「守りを知ったか……いい兆しだ、カムイ。その先にある攻めを掴めるかどうか──それがお前の未来を決めるだろう」
こうして、カムイは「守り」の重みを実感し、仲間と共に戦う喜びを初めて味わったのだった。
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