表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セイクリッドボーダー -銀光の誓約-  作者: デイジー
第1章 騎士団入隊編
15/23

第15話「試験の幕開け」

王都グランフェリアの北端に広がる試験場は、朝も早いというのに熱気に包まれていた。

訓練用に整備された広大な敷地には、木々の茂る森や小高い丘が点在している。戦場を模した環境の中に、数百人もの志願者が列をなし、緊張と期待の入り混じった視線を前方に向けていた。


「戦闘員志望は前へ。非戦闘員は左手の建物へ向かえ!」


鋭い声が響く。列を整えていたのは、鋼のような眼差しを持つ教官だった。

非戦闘員の志願者たちは、筆記と簡単な実技を受けるために試験場を離れていく。

残ったのは剣を手に、あるいは鎧を身に着けた戦闘志望者たち。数は百名を超えていた。


教官は彼らを見渡し、低く告げる。


「これより第一次試験を開始する。形式は――小隊戦だ」


ざわめきが広がる。個人の実力を試すものと予想していた者が多いのだろう。

しかし教官は一切動じず、厳然たる調子で続けた。


「六名一組で小隊を編成し、敵小隊の旗を奪取せよ。勝敗は奪取の有無で決まる。ただし、評価はそれだけではない。任務の遂行力、仲間との協調、そして各自の能力を総合して判定する。剣の腕だけを競う場ではないと心得よ!」


その言葉に、戦場を経験した騎士団の厳しさが滲んでいた。



カムイとリアンは他の志願者と共に抽選の札を引き、割り当てられた番号に従って小隊を組むこととなった。

二人が歩み寄った先で、すでに三人の若者が待っていた。


「おい、俺はダリオだ。突撃なら任せろよ!」


大柄な青年が木剣を肩に担ぎ、豪快に笑った。筋肉質の腕と鋭い目つきが印象的だ。

続いて、冷静な声音が響く。


「僕はセリウス。君たちが加わるなら六人揃ったな。……うまく連携をとらなければ、勝ち目はない」


知的な雰囲気を漂わせた青年で、すでに戦術を考えている様子だった。

その隣に控えていたのは、一人の少女だった。


「……わ、私はフィオナ。魔法志望だけど、補助くらいならできる」


淡い金髪に澄んだ瞳を持つ少女は、緊張の面持ちながらも、はっきりと名を名乗った。

年若いが、纏う空気には芯の強さがあった。


最後に、小柄な少年が遠慮がちに声をあげる。


「ラト……です。ぼ、僕は剣は得意じゃないけど……足は速い。伝令とか、索敵とか……」


どこか怯えがちだが、観察する目だけは鋭い光を帯びていた。


こうしてカムイとリアンを加えた六名小隊が編成された。



小隊が顔を合わせた途端、ダリオが嘲笑交じりにカムイを見やる。


「で? お前が噂の“守り専門”ってやつか。そんなもん、試験じゃ役に立たねえだろ」


「……役立つかどうかは、やってみなければ分からない」

カムイは表情を変えずに応じた。


「はっ、守ってる間に旗を取られりゃ意味ねえんだよ。俺なら最初から叩き潰すね」


ダリオの挑発に、リアンが一歩踏み出した。

「ふざけんな。守りがあるから前に出られるんだろ。カムイを侮辱するなら、俺が相手になるぞ!」


空気が険悪になった瞬間、フィオナが小さく息を吸い、一歩進み出た。

「……私は、カムイの考えに賛成。守りがあるからこそ、仲間は安心して戦える。

攻める者がいれば、支える者も必要。それが小隊でしょ?」


その声音は震えていなかった。

若い少女のはずなのに、その瞳は凛としていて、真っ直ぐにカムイを見つめていた。


カムイの胸に、不意に熱が灯る。

これまで「守り」を口にすれば、笑われるか軽んじられるのが常だった。

父アイガス以外に、正面から肯定してくれる者はいなかったのだ。


(……この子は、信じてくれるのか)


それは刹那のことだったが、彼の剣を握る手に確かな力を宿した。


「……ありがとう」

無意識のうちに、言葉が漏れていた。


フィオナはわずかに目を瞬き、そして微笑んだ。

その笑みは控えめで、けれど確かな温かさを持っていた。

胸の奥に、彼女自身もまた不思議な感覚を覚えていた。

――この人の「守り」は、ただの防御ではない。

誰かを支え、生かすための剣。そう直感したのだ。


「チッ……」

ダリオは舌打ちをして、苛立ちを木剣の素振りにぶつけた。


セリウスが冷静に場を収める。

「役割は違えど、旗を奪うには全員が必要だ。突撃も守りも、索敵も。……不満があるなら、結果で証明すればいい」


険悪だった空気がひとまず収まり、小隊は前を向くことになった。



試験場の中央に鐘が鳴り響く。


「――試験、開始!」


合図とともに各小隊は散開した。


カムイたちの小隊も森の影へと駆け込み、セリウスが指示を飛ばす。

「ラト、周囲を偵察。フィオナは気配を探れ。ダリオとリアンは前衛、カムイは……守りの要だ。ここを突破されれば即敗北だぞ!」


カムイは頷きながら、隣に並んだフィオナと視線を交わす。

彼女は真剣な顔で周囲に意識を向けていたが、その横顔は不思議と彼を落ち着かせた。


(俺の剣は……無駄じゃない。そう言ってくれる人がいる)


父やオルフェンの問いかけが、胸の奥で静かに響く。

――守る剣は、奪うことに繋がる。


木々の間から、別の小隊の影が見えた。

セリウスが「来るぞ!」と声を上げる。


仲間たちが構えを取る中、カムイは深く息を吸い込む。

その横でフィオナも魔力を練り上げ、視線を前へと定めていた。


心臓の鼓動が重なった気がした。

次の瞬間、戦いの幕が切って落とされる――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ