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セイクリッドボーダー -銀光の誓約-  作者: デイジー
第1章 騎士団入隊編
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第14話「剣と心」

王都グランフェリアの空に朝陽が昇る頃、訓練場にはすでに掛け声が響いていた。木剣の音、鎧の擦れる音、息を切らす若者たちの声――その全てが、苛烈な日々の始まりを告げていた。


カムイとリアンもまた、その中に身を置いていた。

「足を止めるな! 守りは形じゃない、流れだ!」

オルフェンの叱咤が飛ぶ。


カムイは必死に木剣を構え、仲間からの打ち込みを受け続けていた。何度も腕に衝撃が走り、砂地に足を取られそうになる。それでも彼は踏み止まる。

「う……ぐっ!」

額から汗が滴り落ちるたびに、父アイガスの背中が脳裏に浮かんだ。守るために剣を振るった父。その姿を思い出すたび、カムイは歯を食いしばって木剣を支えた。


一方、リアンは攻めの稽古に回されていた。軽やかな足運びで相手を翻弄し、鋭い突きを繰り返す。

「もっと速く! 獲物を仕留めるつもりでいけ!」

オルフェンの檄に応え、リアンは笑みを浮かべて踏み込む。

「任せろ!」


二人の姿は対照的だった。守りを固めるカムイ。攻めを磨くリアン。だがその両方が、互いを補い合うように輝いていた。



休憩時間、訓練場の片隅で水を飲む二人に、他の志願者たちが近づいた。

「お前ら、意外とやるじゃねぇか」

粗野な青年が肩を揺すりながら笑う。

「特にそっちの赤毛。攻めの速さは中々だな」

「褒め言葉として受け取っておくよ」リアンは肩をすくめる。

「……でも俺だけ? こっちの相棒は?」

視線がカムイに注がれる。


「守ってばかりじゃ、試験で通らねぇぞ」

挑発のような言葉に、カムイはわずかに眉を寄せた。

「守りがなければ、攻めは続かない。俺はそう思ってる」

淡々とした声が返ると、青年は鼻を鳴らし去っていった。


リアンは苦笑して肩を叩く。

「真面目だな、お前は」

「そうか?」

「俺は攻める方が性に合ってる。勝てばそれでいい。……でもお前は違うんだろ?」

カムイは答えず、ただ木剣を見つめていた。



夜。宿舎の薄暗い灯りの下、二人は藁布団に横たわっていた。

「なぁカムイ」

リアンの声が闇に響く。

「俺はさ、王国騎士団に入って栄光を掴むんだ。名を上げて、強さを証明してやる。……それが俺の夢だ」


カムイはしばし黙してから答えた。

「俺は……守りたいものがある。そのために強くなりたい」

「守りたいもの?」

「まだ、言えるほど整理できてない。でも……ずっと胸にある」

リアンは一瞬黙り、やがて笑った。

「お前らしいな。じゃあ俺が勝って名を上げて、お前が守る。いい組み合わせかもしれない」


二人の言葉が交差し、夜は静かに更けていった。



翌日の訓練を終えた後、オルフェンはカムイを呼び止めた。

「お前の剣は“守る”ためにあるようだな」

「……はい」

「だが、守るために剣を振るえば、必ず奪うことにも繋がる。その覚悟はあるか」


その言葉に、カムイの心は大きく揺れた。

奪う――父が背負ったもの。母を失ったあの日の記憶。

胸の奥に、冷たい刃が突き刺さる。

「……わかりません」

絞り出すような答えに、オルフェンはただ頷いた。

「それでいい。すぐに答えが出せるものではない。だが覚えておけ。覚悟のない剣は、人も自分も救えぬ」


オルフェンの声は、重く、深く、カムイの胸に刻まれた。



数日後。訓練場に告げられる。

「来週、入団試験を行う!」

ざわめきが広がり、志願者たちの顔が緊張に強張る。


カムイは拳を握りしめた。

――守るために、強くなる。だがその先にある“奪う”という現実。

心に宿る問いは答えを得ぬまま、眠れぬ夜が続いていくのだった。

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