第12話「王都グランフェリア」
王都への街道を、カムイとリアンはゆっくりと
歩いていた。
数日前の戦闘の傷はもう塞がっていたが、全身に残る鈍い疲労は完全には抜けていない。
それでも、二人の歩調は揃っていた。
「なあカムイ、その腰の袋……まだ持ってるのか?」
リアンが不意に問いかける。
カムイは無言で袋を開き、中から例の黒い水晶を取り出した。
あの夜、ノクス・オーダーの男が泉の魔力を吸収していた時に使っていた、不気味な結晶。
触れた瞬間、脈を打つように光り、熱を帯びていた感覚が、まだ鮮明に残っている。
リアンは腕を組み、じっとそれを見つめた。
「気味悪いもんだな……。ちょっと貸してみろ」
カムイは一瞬ためらったが、水晶を手渡す。
――しかし、何も起きない。
黒い水晶はただの石のように冷たく沈黙し、淡い光すら宿さない。
「……おかしいな。お前の時みたいに光らない」
リアンが首をかしげると、カムイも眉をひそめた。
「やっぱり、俺だけに反応してるのか……」
「特別扱いってやつか? でも、それはあんま嬉しい種類じゃねえな」
リアンは冗談めかして笑ったが、その瞳の奥に小さな警戒心が見えた。
二人は顔を見合わせたまま歩き出す。
その背後で、袋に戻された黒い水晶が――わずかに、ほんの一瞬だけ淡く明滅した。
それに気づく者はいなかった。
⸻
街道の先、空の向こうに巨大な石造りの城壁が姿を現す。
遠くからでも分かるその圧倒的な高さと厚さに、二人は息を呑んだ。
「……あれが、王都グランフェリアか」
「でっけぇ……村の柵とは比べもんにならねぇな」
リアンが素直に感嘆の声を漏らす。
城壁に近づくにつれ、道は賑わいを増していく。荷馬車を引く商人、旅装の剣士、鮮やかな衣服を纏った貴族らしき人影――
見たことのない景色に、カムイの胸が高鳴った。
門前広場には、検問の列が長く伸びていた。兵士たちが通行人の身分や荷物を確認し、通行許可を出している。
列に並びながら、カムイは視線を巡らせた。
その時、門の横に掲げられた一枚の掲示板が目に留まる。
――《王都騎士団 新規入団試験 開催告知》
文字を目で追うと、試験の概要や日程が書かれていた。
カムイはじっとその紙を見つめ、拳を握る。
戦いの中で守れなかった人たち。あの悔しさ。
「……俺も受ける」
小さく呟いた声に、リアンはにやりと笑った。
「お、やっと言ったな。俺と同じ舞台に立つってわけだ」
「そのつもりだ。……俺は、自分の手が届く範囲くらい、守れるようになりたい」
リアンはうなずき、軽く拳を突き出した。
「なら、二人で受かろうぜ。どっちかだけなんてのは無しだ」
カムイも笑い、拳を合わせた。
検問を終え、二人はついに王都グランフェリアの門をくぐる。
その瞬間、視界いっぱいに広がる壮麗な街並みと、石畳を踏みしめる足音が、これから始まる新たな物語を予感させていた。
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