第11話「決意の刃」
翌朝、澄み切った青空が街道の先まで続いていた。
カムイとリアンは宿の前で荷物を整え、
出発の支度を終える。
「いよいよだな、王都まであと少し」
リアンが肩の荷袋を背負い直しながら笑う。
「ああ。……でも、俺はただ強くなりたいだけじゃない」
カムイは歩き出しながら、小さく息を吐く。
「俺は……守れる人間になりたい。あの村で、何もできなかった自分みたいにはもうなりたくない」
リアンは少し目を細め、カムイの横顔を見た。
「それなら、俺も力を貸す。二人でなら、
もっと守れるはずだ」
ふたりは歩きながら、拳を軽く合わせた。
⸻
街道を進むうち、前方に止まっている馬車が見えてきた。車輪が外れ、商人たちが修理に悪戦苦闘している。
カムイたちが近づくと、荷車の影から、じっと彼らを伺う影があった。
「……来るぞ」
リアンが低く告げた瞬間、草むらから数人の男たちが飛び出してきた。ボロ布をまとい、刃物や棍棒を手にしている。
「おっと、今日は当たりだな。若ぇ護衛と商人か」
先頭の男がにやりと笑う。その腰には、黒く濁った水晶のペンダントがぶら下がっていた。
(……あれは、あの時の欠片と似てる)
カムイは一瞬、目を細めた。
「商人たちは俺が守る。リアン、攻めは任せた!」
「了解!」
カムイは前に出て剣を抜き、男たちの刃を受け止める。
金属がぶつかる甲高い音と共に、衝撃が腕に伝わる。
すぐに踏み込み、相手の腕を弾いて反撃に移る。
一方、リアンは背後に回り込み、隙を突いて
敵の足を払う。
倒れた相手の武器を蹴り飛ばし、もう一人の腹部へ肘打ちを叩き込む。
「ちっ、この二人……!」
男たちは動揺を隠せず後退した。だが撤退の直前、先頭の男が低く呟く。
「黒の契約を忘れるな……」
意味深な言葉を残し、男たちは森の奥へ消えていった。
⸻
商人たちは無事で、車輪の修理も終わった。
見送った後、リアンが不安げに問いかける。
「なぁ、さっきの“黒の契約”って……」
「分からない。でも、あの黒い水晶といい……何か、繋がってる気がする」
カムイは腰の袋から欠片を取り出し、夕陽にかざした。
その瞬間、欠片が脈打つように淡く赤黒い光を放った。
カムイの掌に、かすかな熱が走る。
「……っ!」
思わず手を離すと、欠片は地面に落ち、光はすぐに消えた。
「……今の、見たか?」
「ああ。まるで……呼応してたみたいだ」
リアンは険しい表情で周囲を見渡したが、森は静まり返っていた。
脳裏に、村で守れなかった人々の姿がよぎる。泣き声、
倒れた人々、伸ばせなかった手――。
「……もう二度と、あんな思いはしたくない」
カムイは拳を握り、視線を前へ向けた。
やがて森を抜けた先、夕焼けに染まる
王都の城壁が姿を現す。
高くそびえる尖塔と、幾重にも連なる石壁。
「……ここからが、本当の始まりだ」
その声は、静かにしかし確かな熱を帯びていた。
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