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第1話「山奥の村の日常」

 初夏の朝、山奥の小さな村は

白い霧に包まれていた。

木々の葉を揺らす涼やかな風と、遠くで響く鳥の

さえずりが一日の始まりを告げる。


「カムイ、水は持ってきたか?」

 父・アイガスの声が、木工台の上から響く。


「ああ、井戸から汲んできたよ」

 桶を軽く持ち上げ、庭先の樽へと注ぎ込む。

 冷たい水がきらきらと跳ね、陽の光を反射した。


 アイガスは木彫りの作業に没頭している。

大きな手で器用にナイフを動かし、丸太を削っていくその横顔は、どこか近寄りがたい威厳を帯びていた。


「今日は畑を手伝え。南の区画だ」

「はいはい」

 戦いの訓練は一切なく、俺もそれを望んでは

 いなかった。


 そこへ、ふわりと焼き立てのパンの香りが

漂ってきた。


「おはよう、カムイ」

 セリナが籠を抱えて門の前に立っている。

 長い栗色の髪を三つ編みにまとめ、

 柔らかな笑みを浮かべていた。


「今日も朝ごはん持ってきたわよ。

どうせ二人じゃまともな物、食べてないんでしょ?」

「……否定はしない」

 差し出された籠の中には、まだ湯気の立つパンと

ハーブの香るスープ。

父の分もきちんと用意されている。


 朝食を済ませたあと、俺は村の広場へ向かった。


 そこでは、いつものようにリアンが木剣を

振り回していた。


「よっ、カムイ! 今日もいい天気だな!」

「剣振ってる奴に言われたくない」

「いいから一発やろうぜ、一発!」

「やらないって。俺は戦うのは性に合わないんだ」


 リアンは苦笑しながらも剣を肩に担ぎ、

「俺は必ず騎士団に入ってみせる」と胸を張った。


 その自信はどこから来るのか。

まあ、夢を持つのは悪くない。


 広場の片隅では老人たちが世間話をしていた。


「東の街道で盗賊が出たそうじゃ」

「魔物まで現れたらしいぞ」

「ここまで来ることはないだろうがな」


 ……平和ボケした村人らしい会話だ。

俺もその一人だけど。


 午後になると、見張り役の少年が息を切らしながら駆け込んできた。


「お、おい! 村に……鎧を着た人が二人、

こっちに来る!」


 一瞬で広場がざわついた。


 遠くの山道の向こう、陽光を反射して

きらめく銀の鎧。二人組の影が、確かにこちらへ

近づいてきていた。


 リアンの瞳が輝く。


「おい、カムイ! あれ、騎士団だろ!」

「……さあな」


 胸の奥で、何かが小さく鳴った気がした。


 それが何なのか、このときの俺はまだ

知らなかった。


 ――こうして、静かな村の日常は、

わずかに揺らぎ始めた。

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