序章 星廻る、銀河に共演を…
ずっと隣で、愛し続けた星が在った。Jupiterは映画による探求心で、黄金に輝く演劇。動物達と駆け巡る、自然の慈しみを抱き、高らかな共鳴と自らの橙に輝く、炎よりも尊い海辺の人魚姫を創設する。様々な銀河を終えて来た世界で、唯一にして最良の言葉を選び抜いた少女。
彼女へと旋律を捧げる為、俺が奏でた荒廃する建物が、星々へと数多の輝き、唸りを持って轟く。
「クラシック音楽に、最愛の人は必要ない。」
手を伸ばして、彼女へと合図を送る。流星群に妖精達を、愛と崇拝の念で煌めかす。終焉に、再生で応えるJupiterへと連弾を求めれば。快く引き受けたと同時に、優しいオーロラが舞台上に姿を現した。
「必要なのは、君と俺。DollとPianistだけが、この世界と言う名の芸術を創作し、孤独と言う名の月浴を亡ぼすんだよ。」
観客の大歓声など耳にも入らない。彼女の言葉と、舞台上に繰り出される光彩のアート、そして俺のピアノの音色だけ。最後の一音を宇宙の彼方へと吸い込まれてしまうまで、俺の瞳には輝く一等星だけが、映っていたのだった…。
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きらきら星の楽章が、胸の内に旋律を奏でていると気づいたのは、幾つの頃だっただろう。調和と冷静さを図るよりも先に、世界の滅びと電子信号を中和させる、ピアノに心を奪われた。愛されるよりも、愛したい。俺自身が誰よりも輝く、一番星の名を持ちたい。
そんな、稚拙な想いと願いだけで、この舞台を。誰よりも大切な片割れと共に作り上げてきた。
「おい、へばってないか?」
「大丈夫だよ。」
グランドフィナーレは近く、彼女が指先に灯した刹那の輝きに、観客達は圧倒されて、俺達の囁く声にも気づかない。
「最後、俺の方に合わせて欲しいんだけど。」
「いつもそうじゃない?」
微笑みと共に、小さな光は燃え盛る焔となって、広大な森を焼きつくす。凍る瞳と、冷徹な牙を持った狼は、星々から強大な力を得て、星座に描かれた神話の一つ一つを体現するよう、全身で唸り声をあげている。
「森も良いんだけどな、俺が好きなのは星空だ。」
「そう…。」
炎の光を受けて、いつもとは違う色の瞳をしている彼女が、焼かれた空へと手を差し伸べる。楽章を紡ぎ、言葉よりも深いメロディが彼女に与えられた瞬間、俺がピアノに叩きつけた純真な宇宙への感情が、ステージ総てを青く染め上げた。
「この星に触れる程、貴方が大切にしている物がよく分かる。」
「ああ。」
総ての炎を消し去り、世界を原生へと甦らせる、宇宙と言う生命を感じる海。星の一つが輝き、人々の胸へと愛が返った時。舞台は静寂と、彼女が抱えた青い星だけで、心奪われる世界に変貌していた。
「この瞬間が、俺は大好きなんだよな…。」
何も答えない彼女が、口の動きだけで俺の名前を告げる。それに頷いて、俺は立ち上がり、アンコールを求めて盛大な拍手を送る観客へ一礼したのだった。
これは、DollとPianist。芸術の名の下に、縛られた俺達の物語。ただ互いの大切な人を守るため、音楽に生きた。星を愛するために、手を伸ばした…。そんな何処にでもある物語だ。