第9話 親友
一晩寝て気分を一新したリクレールは、朝食が用意される前から精力的に動き始めた。
特に今日は来客が多数ある予定なので、迎える準備をばっちりと整えておきたかった。そんな中、リクレールが一番仲のいい友人が早速駆けつけてきてくれた。
「すごく落ち込んでいるって聞いて慌てて駆けつけてきたけど、随分と元気じゃないか」
「おはようシャル、心配して来てくれて嬉しいよ。何しろ忙しくて落ち込んでいる暇もないからね。それに、本当なら君も参列者としてもてなさなきゃいけないんだけど、まさか手伝ってもらえるなんて」
「水臭いぞ、俺とお前の仲じゃないか」
シャルと呼ばれたくすんだ緑髪の少年シャルンホルストは、リクレールの3つ年上の親友であるとともに、同じ西帝国の士官学校に所属する級友でもある。
リクレールは家の危機のため一時的に休学して実家に戻ってきたわけだが、シャルンホルストは「親友が心配だから」という理由で勝手に休学して学校を抜け出してきたのである。
後で先生から大目玉を食らうだろうが、彼は全く意に介していない。
「しかし、なんかこう、雰囲気変わった? なんだか知らないうちに堂々とするようになったじゃないか」
「変わった? そうかもね、僕もこの家の跡を継がなきゃいけないから、弱いままじゃいられないって思って。今は無理にでも突っ張らなきゃいけないんだ」
「そっか……けど、無理するなよリクは昔から繊細だったから、人を束ねるのはいろいろと苦労するはず。困ったらすぐに俺を頼ってくれ」
「ふふっ、じゃあお言葉に甘えて、色々お願いしちゃおっかな」
「そうそう、そうこなくっちゃな。で、もう一つ気になるんだけど、その剣……いったいどこから持ってきたんだ?」
やはりシャルンホルストも、リクレールが背負う濃紫の大剣が気になるようだった。
「この剣はね、魔剣エスペランサっていうんだ。僕も昨日まで知らなかったんだけど、聖剣庫にずっと保管されてたのを偶然見つけたんだ。エスペランサのおかげで、聖剣が継げなくてもなんとか家臣たちが言うことを聞いてくれたよ」
「魔剣か……剣の実技で万年最下位のリクがそんな物騒な武器を持つなんて、俄かには信じられないよ。重くないのか? ちょっとだけ俺にも見せてもらえないか?」
「あ、ちょっと待った」
自身も魔法剣の使い手であるシャルンホルストは興味深そうに魔剣に手を伸ばしたが、まるで剣に拒絶されたかのようにバチンと弾かれてしまった。
「イッテ!? 俺じゃダメってことか……」
『わたくしに触れてよいのは主様だけですわ!』
(エスペランサ……多分聞こえてないと思うよ)
エスペランサは甲高い声で叫ぶが、彼女の声は現状リクレール以外には聞こえないので、リクレールの脳内に金切声が響くだけに終わった。
「と、とにかく、今は葬儀の準備に集中しないと。セレネたちももうすぐそこまで戻ってきてるって連絡があったし」
「あ…ああ、そうだな!」
こうして、シャルンホルストも手伝ってくれたこともあり、予定よりも早く、その上より立派に式典の準備を整えることができた。
後は魔族軍残党の討伐に赴いているセレネたちの帰還を待つだけだ。
キャラクターノート:No.005
【名前】シャルンホルスト・ユルトラガルド
【性別】男性
【年齢】18
【肩書】ユルトラガルド侯爵家次男
【クラス】戦術士
【好きなもの】新しい戦術の考案 手先を使う作業
【苦手なもの】父親の拳骨 塩辛い食べ物