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聖剣を継げなかった少年は、魔剣と契りて暴君を志  作者: 南木
第5章 家族のような存在
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第89話 九花亭

 決闘騒ぎやセレネとの会談があった次の日。

 明日から葬儀が始まるミュレーズ家なにやら非常に騒がしい様子だったが、リクレール自身はこの日は特に予定はなかったため、かねてからの懸案事項の一つに取り掛かろうとしていた。


「ここか……アルクロニス・メイド組合本部、通称『九花亭ノーンフェイル』か……」


 リクレールがやってきたのは、帝都アルクロニスの貴族が住む区画と商業区域の境にある三階建ての大きな建物『九花亭ノーンフェイル』だった。

 今滞在しているタウンハウスの清掃や三食の用意などは一時的に直属兵たちに命じているが、彼らの本分はリクレールや館の警護なので、これ以上負担をかけるわけにもいかない。

 そのためにはまず使用人を雇用する必要があると考え、帝都一の規模を誇るメイド組合の本部にやってきたのだった。

 事前のアポイントはとっておいたので、組合長とも比較的スムーズに面談でき、現在雇うことができる人物たちの情報をいろいろと教えてもらいつつ、資料をいろいろ吟味することができたのだが…………


「うーん……人を雇うのって難しいな」


 組合長と話しただけでは結論が出なかったので、リクレールはいったん待合室で資料を眺めながら考えをまとめることにした。


『わたくしから見ても、どの者も雇用費相応とは言い難く、割高と思われますわ』

(そうだよね……かといって適当に雇うのもなぁ。何しろ、新しい使用人は侯爵家のセキュリティに直結するからね)


 リクレールは初めて知ったが、使用人にも向き不向きな作業があり、必要になる作業によって異なるタイプの人を雇う必要があるということだった。

 これが兵士の採用であれば、どんな素人でも一定の訓練で同じように動かすことができるが、家の内部のことを司る使用人をよく考えずに雇ってしまえば、非効率なだけでなく、盗賊に内通したり敵国にうっかり情報を漏らしたりする恐れも出てくる。

 組合長からはグループ単位で活動している使用人のチームを丸ごと雇うか、もしくは雇用費が高くついても万能の凄腕を雇って少数精鋭とするかなどの案も提示されたが、残念ながらその場ではこれはという決定打がなかった。


「僕としては少数精鋭でいきたいけど、それだと負担がな…………うん?」


 リクレールがイスに深く腰掛けながら思案に耽っていたところで、受付の方から女性が言い争うような声が聞こえてきたので、なんとなくそちらの方に視線を向けた。

 そこには、受付の職員に対して何やら懇願しようとしている、薄い青色の長髪で、丈長のメイド服を着た女性の姿があった。


「お願いします、そこをなんとか…………! このままでは私たちは、路頭に迷ってしまいます! せめて仲介だけでも……!」

「ですから、そう言われましても、上層部の決定に異議を唱えることは何人たりとも許されません。あなた方にも事情があったとはいえ、問題を起こしたことは由々しき事実です」

「ですが……っ!」


 どうやらメイドは何かしらの問題を起こして、組合を除名されてしまったのだろう。

 だが、リクレールは彼女に対して少々興味がわいてきた。

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