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聖剣を継げなかった少年は、魔剣と契りて暴君を志  作者: 南木
第5章 家族のような存在
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第88話 セレネの怒り

「そ……そうだわ、リク君。肝心な話がまだだったけど、私にどうしても話しておきたいことがあるんですって?」


 セレネは士官学校から帰ってきたら話があると言っていたことを思い出したので、そのことについて聞いてみた。


「ああそうだった、決闘騒ぎのことでつい忘れるところだった。セレネはバスチアン兄さんの葬儀について、何か変わったことがあったか聞いてる?」

「兄さまの葬儀のこと? 私は出征の準備に忙しくて特に何も聞いてないけど……順番的にリク君は2日目よね?」

「いいや違う、僕は9日目だ」

「えっ!?」

(この反応、やっぱりそうか)


 セレネは今、魔族軍への大反攻作戦の総司令官に任命されたことで、出征の準備に追われているのと同時に、兄バスチアンの葬儀の主催も兼ねることになっている。

 今リクレールと話していられるのも、表向きには疲労がたまっているから一度休憩するということにしているが、これから明日から始まる葬儀についての支度にも携わらなければならない。


 だが、アルトイリス家の葬儀でリクレールが天手古舞になっていたのとは異なり、ミュレーズ家は人材豊富なのでセレネが出征の準備に追われている間、家臣や親族たちが代理で葬儀の用意を整えてくれていた。

 そのため、セレネは安心して自分の仕事に没頭できたのだが、どうやら一部の家臣がそのことを悪用したようだ。


「ちょっと待って!! 婚約段階だったとはいえ、アルトイリス家はほとんど親族のようなものなのだから、かなり優先度が高いはずなのに…………しかも序列が子爵並みってどういうことなの!?」

「たぶん……ミュレーズ家は君の知らない間に方針転換して、アルトイリス家を切り捨てるつもりなんだろうね。新しい当主は聖剣を継げなかったし、主力の騎士団は全員移籍して、残ったのは凡庸な貴族ばかり。そんな家と協力関係を結んでいたら、一方的にたかられるだけだって判断したのかも」

「そんな、嘘よっ!! そんなこと、私が許さないんだから!!」


 自分の家が隠した扱いされているにもかかわらず他人事のように淡々と語るリクレールだったが、彼の話を聞いていたセレネは怒りのあまりその場に立ち上がり、机を両手で強くたたいた。

 その拍子に、机上のカップが倒れてしまい、中に入っていたお茶がこぼれて床を汚してしまった。


「セレネ、落ち着いて!」

「……っ!!  ごめんなさい……でも、私はこんなことも知らなかったなんてっ! リク君を排除しようとする誰かがいることも許せないけど、それをみすみす見逃した私自身を許せないっっ!!」


 リクレールは、セレネが今までに見たこともない険しい表情をしているのを見て、思わず腰を抜かしそうになった。

 そしてセレネはカップのお茶をグイっと飲み干し、床にこぼしたい茶を丁寧にふき取ると…………


「リク君、ゴメン。もっと話していたかったけれど、どうしてもすぐにやらなきゃいけないことができたわ」

「……わかった。あまり無理しないようにね」

「うん、だけどリク君、何度も言うけれど……私は絶対にリク君の味方だから。困ったことがあったら遠慮なく言って」


 そういってセレネはそそくさとその場を後にした。

 おそらく彼女は、すぐにミュレーズ家内で犯人探しと葬儀の予定の確認に行くのだろう。

 居間にはリクレールとエレノア(とエスペランサ)だけが残った。


「もう、あの子は思い立ったらすぐ行動するのはいいけれど、もう少し状況を整理してからでも遅くないのに」

「あはは……でもあの行動力があるから、みんな付いていくんでしょうね。エレノアさんも、今日は来ていただいてありがとうございました。お茶と付け合わせのジャム、とてもおいしかったです」

「あら、リクレール君まで私を追い出すつもり?」

「そ……そういうことじゃないですよ。ただ、あまりエレノアさんにいろいろやってもらうと、それはそれでミュレーズ家に借りができてしまうかなって思って。むしろ、エレノアさんにはセレネの味方になってあげてほしいんです」

「ふふっ、それもそうね。あわよくば今夜は久しぶりにこの館に泊まって、昔よくしてあげたように、リクレール君を寝かしつけてあげようかなって思っていたんだけど」

「しなくていいです! どれだけ小さい頃の話をしてるんですか!」

「あれは私が離婚する直前くらいだったかしらね。怖い夢見て眠れなかったリクレール君に添い寝してあげて、おっぱい吸わせてあげて、私にも子供ができたらなって思いながら――」

「わーーーーーっ!!?? それ以上はやめてっ、早く帰ってっ!!」

「からかいすぎちゃったわね」


 危うく黒歴史を暴露されるところだったリクレールは顔から耳まで真っ赤にしながら、ほとんど追い出すようにエレノアを帰らせたのだった。


「まったく……シャルといい、トワ姉といい、エレノアさんといい……なんでみんなして僕を抱き枕にしようとするのか。僕はもう侯爵様なのになぁ」

主様メーテル

「どうしたのエスペランサ?」

『わたくしは人間の身体のことはよく知りませんが、このくらい大きな方が主様メーテルはお好みでしょうか?』

「ち、ちがっ……何考えてるのエスペランサ!? き、君はそのままが一番綺麗だからっ!」

『まあ、嬉しいですわ主様メーテル。やはり主様メーテルの一番は誰にも渡しませんわ』

「何でこうなるの……」


 エレノアが帰った後も、今度はエスペランサにいろいろ困らせられるリクレールであった。


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