第86話 リクレールの庇護者
「そっか……それで決闘をするなんてことになったのね」
「僕もだいぶ大人げなかったと思うけれど、もうこれ以上士官学校に通わないのなら、もう彼らに頭を下げる義理もないかなって。それがまさかあんな風にこじれるなんて、彼らのプライドの高さと執念深さを舐めてたよ」
「リク君は何も悪くないわ! 私もまさか、リク君が士官学校でいじめられていたなんて知らなかった……知っていたらあの場でもっと厳しくしかったのに! ううん、私が同じ時期にリク君と一緒に学校に行けていれば……私も反省しなきゃ」
「そんな! セレネが反省することなんてないよ! 僕だってその……いじめられてるなんて、自分が恥ずかしくて情けなくて、口に出せなかったし」
決闘騒ぎがセレネの介入によって無理やり沈静化した後、リクレールとセレネは共に場所を士官学校からアルトイリス家のタウンハウスへと移した。
その道すがら、セレネはアルトイリス侯爵領から撤兵した後にミュレーズ家騎士団が打ち漏らした魔族軍残党をリクレールが独自に撃破していたことや、侯爵家内でリクレールの即位に反対した貴族たちを粛清したことはじめて知った。
決闘に介入した時点でのセレネは、リクレールが魔剣の力でパワーアップしていることを全く知らなかったので、白竜学級の級長と決闘すると聞いたときはリクレールが一方的に叩きのめされると思い、忙しい中にもかかわらず慌てて駆けつけてきたのだった。
(まさかリク君が決闘に勝っただけじゃなくて、魔族軍残党を全滅させて、身内の貴族を粛清するなんて……信じられない、けど、シャル君もトワさんも事実だって言っているし)
セレネにとって昔から、そして今でも、リクレールは自分が守るべき大切な人であり、彼自身が戦うなんて考えられなかった。
そして、リクレールに戦う力を与えたというのが、今もリクレールが肌身離さず携えている妖艶な魔剣だということが、セレネをより一層不安にさせる。
(やっぱり……あの魔剣はリク君をよくない方に導いている気がする。けれども、今リク君に魔剣を手放してほしいって言っても、その通りにしてくれるとは思えない)
セレネからしてみれば、とんでもない力を貸し与える魔剣などというものは、いずれ持ち主に破滅をもたらすことは疑いようがない。
けれども、セレネが知らない間にリクレールが直面した重大な危機をすべて乗り越えられたのは、魔剣エスペランサのおかげであり、そのせいでリクレールは完全にエスペランサの力を信頼してしまっている。
(私がリク君を守れていればっ! マリアさんがいなくなった分、私がずっとリク君のそばにいてあげることができたのなら……!)
セレネは自分の家の事情があるとはいえ、大切な幼馴染が危機に陥っていた時に助けてあげることができなかったことに猛烈な口惜しさと悲しさを感じ、思わず膝の上でこぶしを強く握った。
そして、その様子を見たエスペランサは――――
『ふふん……』
口には出さなかったが、リクレールの背後で勝ち誇ったような表情をしていた。
「えっと、どうかしたのセレネ?」
「えっ? な、なんでもないわリク君!」
リクレールはエスペランサの内心を知らず、突然セレネが黙り込んでしまったので少し心配そうに声をかけた。




