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第82話 士官学校の決闘

 アヴァリスはすでに自分が勝つのが当然と考えているようだが、勿論リクレールも言われっぱなしで済ますことはしなかった。


「ただし、もちろん僕からも要求がある。君はかつて同じ学級だったころに僕のことを散々にいじめてくれたね。そのことについて誠意をもって謝罪すること、これが一つ」

「いじめ? 俺は白竜学級から落ちこぼれを出したくなかったから指導しただけなんだがな。まあいい、頭を下げるくらいならしてやらんこともない」

「もう一つは君の退学だ。どうせ僕なんかに負けたら、恥ずかしくて士官学校にいられないでしょ」

「俺に退学しろだと……!」


 リクレールが出した要求に、周囲の学生や教師たちはもちろん、アヴァリスも面食らった。

 しかし、アヴァリスは怒りを顔に出しつつも、それをどうにか堪えて冷静に返事した。


「いいだろう……万が一俺が負けたら、お前の要求は呑んでやる」

「いいの? 考え直すなら今のうちだよ?」

「それはこちらのセリフだ」


 こうして、双方が合意したことで決闘は成立し、1刻後にはお互いに訓練場で相まみえることとなった。

 この結果に白竜学級の生徒たちはみな勝ち誇った表情をし、紫鴉学級の生徒たちはせっかくの送別会を台無しにされたことで悔しさをにじませていた。

 白竜学級の生徒やウルスラ以外の教師たちが食堂を去り、再び紫鴉学級の生徒たちだけになると、食堂はたちまち憤慨する声であふれた。


「リクレール! あんな奴の言うことを真に受ける必要はねぇ! なんなら俺が決闘代理人になってやる!」

「そーよそーよ! あの嫌な顔を見た? 完全に弱い者だったわ」


 真っ先に声を上げたのがゼークトとスーシェだった。

 彼らはリクレールが戦いに向いていないことはよく知っているので、アヴァリスがリクレールに対して明らかに勝ち目のない決闘を吹っかけてきたこと自体が卑劣極まりないと感じている。

 ほかの紫鴉学級の生徒たちも同様で、決闘を受けるべきではなかったという意見が大多数だった。

 だが、それらの言葉を唯一リクレールの実力を知るシャルンホルストが制した。


「リクが戦えることは俺が保証する。それに、もしものことがあったときは俺が何とかするよ、だから今回だけはリクの決断を尊重しようじゃないか」

「僕からもお願いする。本当はこんな力の使い方は悪いことなんだろうけど、僕なりに彼とはケジメをつけたいんだ」


 こうしてクラスメイト達の不安をよそに刻々と時間が過ぎていき、あっという間に決闘の時刻となった。

 訓練場には白竜、紫鴉だけでなく、ほかの7学級からも噂を聞きつけてきた生徒や教師などが続々と集まり、時間になるころには訓練場周囲は大勢の人でいっぱいになった。

 決闘自体はそう珍しいことではないのだが、大体が突発的に始まって突発的に終わる場合が多いので、こうしてきちんと時間と場所が正確に決まっているとなると、野次馬たちも集まりやすいのだろう。

 もっとも――――


「どっちが勝つか賭けてみないか? 1口につき10リブラ(※貨幣単位。1リブラが金貨1枚)でどうよ」

「この対戦カードじゃ賭けなんてほぼ成り立たんだろ。ま、どうしてもというならアヴァリスが勝つに1口だ」

「むしろリクレールがどのくらい粘るか賭けたほうがいいんじゃないか」

「菓子~、お菓子はいらんかね~」


 集まった生徒たちの大半は完全に娯楽目当てであり、賭けを始める者もいれば、商売をするものまで現れる始末。

 下馬評でもアヴァリスが勝つのがほぼ当然とみられており、リクレールが勝つと思っているのは紫鴉学級の生徒たちだけだ。

 あまり緊張が感じられない雰囲気の中、訓練場の中央でリクレールとアヴァリスがお互い一定の距離をもって向かい合うと、決闘の仲介人として指名された教師が、双方に決闘に使用する剣を手渡した。

 ところが、リクレールが鉄製の剣を受け取ったところ、妙な感触を覚えた。


主様メーテル、この剣は留め具に細工がされておりますわ。何も考えずに相手の剣を受け止めれば、刃の部分がグリップから抜け落ちてしまうでしょう』

(は? 重要な決闘にそんな不良品を渡してきたの!?)


 エスペランサは荷物とともにリクレールの後ろの置き場所に留め置かれているが、彼女の言葉や感覚はこの程度距離が離れていても問題なく機能するようだ。

 だがそんなことより、リクレールは第三者を通して公平に渡されるはずの剣に、途中で壊れるよう細工が施されていると知って愕然とした。

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