第74話 元落ちこぼれへの報復
「新入生が……アルトーから、家族を殺した相手の仇討ちをお願いされて……しかもそれが、よりによってあのシスコ――じゃなくて、リクレールだと聞いたんで」
「そ、そうです! 級長はこいつの境遇を憐れんで、あの出来損ないを懲らしめてやろうと!」
「ふん、そういうことか。アルトー、そなたのお父上のことは無念だっただろうが、仇討ちをするのであれば、自分の力で成し遂げるのだな。で、私がここに来るまでの道すがら、あの見知った顔の落ちこぼれとすれ違ったわけだが……貴様ら共々争った形跡がなかった。本当に貴様らは争う気があったのか?」
「いや……それは」
「先生! あいつは先輩を巨大な剣で殺そうとしたんです! それで先輩はすっかり怖気づいてしまって!」
「バ、バカ! 余計なことを言うなっつーの!」
「リクレールが巨大な剣を? 貴様ら、それは本当か?」
「は……はい」
デュカスはアヴァリスたちが集団でリンチにしようとしたことについて、なぜか怒る様子はなかった。
それどころか、リクレールに家族を殺されたというアルトーに対し、仇討ちは自分自身ですべきと諭すほどだ。
このようにデュカスは、優秀な生徒が成績の悪い生徒に対して制裁を加えることを咎めないばかりか、リクレールのことを公然と「落ちこぼれ」と明言するなど、ある意味公正ではあるが公平とは程遠い教師なのだった。
いくら学業の成績がよくとも、武門の家系にあるまじき運動能力のなさと、姉の七光りで最上位クラスに入ってきたリクレールを、デュカスは担任の教師であるにもかかわらず非常に毛嫌いしており、生徒たちがリクレールをいじめても咎めないし、何なら彼自身もことあるごとに理不尽なしっ責や体罰を下したものだった。
そして、リクレールが色々あってクラスを移籍した後も、彼は何かにつけてリクレールのことを嫌悪していたという。
「まあいい、どうしても仇を討ちたいのであれば、決闘でもなんでもするのだな。ただし、やるからにはきっちりと行うことだ。さもなくば、機会は二度と訪れぬかもしれないのだから」
「えっと、それはどういうことですか先生?」
「なんだ貴様ら、知らないのか? リクレールは侯爵家の当主となったとかで、今日にも退学するとのことだ。その上、紫鴉学級級長のシャルンホルストも本日付で退学する。あの二人が授業時間にもかかわらず本校舎に行くのは校長に退学届けを出すためだろうな」
「「「なっ!?」」」
リクレールとシャルンホルストが退学するという話を初めて聞いた白竜学級の生徒たちは、今まで以上に困惑しつつあった。
落ちこぼれのリクレールはもとより、白竜学級にとって、そして何より級長のアヴァリスにとっても目の上の瘤のような存在だったシャルンホルストが、士官学校からいなくなるのは非常に喜ばしい出来事であったが、それは同時にこのままでは彼らに勝ち逃げされることを意味していた。
「あいつら……いつも以上に飄々としていたのはそのせいか! こうなりゃ、なんとしてでもあの二人に餞別を叩き込んでやらにゃ気がすまねぇ! よし、これから教室に戻って作戦会議するぞ!」
「「「おうっ!」」」
「……言っておくが貴様ら、それとこれとは別に、授業を無断で抜け出した罰は受けてもらうからな。そして、この上さらに負け恥を晒したら……貴様らを一から鍛えなおしてやるから、覚悟しておくといい」
「「「うへぇっ」」」
こうして、アヴァリスをはじめとした白竜学級の面々は、打倒リクレールとシャルンホルストに向けて、急遽学級内で会議をすることとなった。




