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第71話 因縁の相手

 リクレールが感傷に浸っていると、隣を歩いていたシャルンホルストがふと足を止めた。


「リク、とまれ」

「ん?」

「ヤツらだ、明らかに俺たちを待ち構えてやがる。しゃあない、迂回するぞ」


 見れば、校舎の正面玄関に続く石畳の先に、士官学校の制服を着た男子生徒が10名待ち構えていた。

 彼らはすでにリクレールとシャルンホルストの姿を捕捉しているようで、リーダー格の男を中心に、まるで威嚇するような姿勢で立っている。

 彼らの姿を見るだけで、かつて受けた仕打の数々を思い出し、リクレールは思わず顔をしかめた。


『なるほど……主様メーテルの記憶から察しますに、彼らはかつて主様をいじめていた不届きものですわね』

(うん、情けないことにね)

『なんという卑劣極まりない……わたくしの主様メーテルを愚弄するとは、許し難いですわ。もし許可をいただければ、全員瞬殺して御覧に入れますわ。いえ、瞬殺など勿体ないでわね。四肢の一部を切り飛ばし、不具にするのがよろしいかと』

(後々面倒だからいいよ。あんなのでも有力貴族の息子だから、下手をすると外交問題になる)

『それもそうですわね。詰まらぬ相手を斬ったせいで主様メーテルのお手を煩わせることもございません』


 待ち構えていた男子生徒たちが誰なのかは、近づかなくてもすぐにわかった。


「ようシスコン、よく戻ってきたなぁ? 弱虫のテメエのことだから、大好きな「お姉ちゃん」と一緒に墓でおねんねしてるかと思ってたんだがな。それに、()()()のシャルンホルストも一緒ときた」

「やっぱりお前かアヴァリス。それに今授業中のはずだろこの時間に屯しやがって、優等生が聞いて呆れるぜ」


 士官学校には成績や専門分野などで学級が9クラスに分かれており、彼らはその中でも最優秀クラスに位置する「白竜学級ラ・リュミエルドラゴン・クラージュ」に属しているエリートの貴族子弟だった。

 特にリーダー格の男子生徒アヴァリスは、リクレールだけでなくシャルンホルストも因縁がある相手でもある。

 すらっとした細身の長身によく手入れされた紫色の髪、そして堂々と自信に満ち溢れた顔のこの男、本名をアヴァリス・ブレヴァンという。

 そう、彼は今まさにシャルンホルストの実家ユルトラガルド侯爵家と一触即発になっている、ブレヴァン侯爵家の嫡子なのである。


「悪いけど、俺たちはこれから大事な用事があるんだ。お前たちにかまってる暇はない、また今度遊んでやるよ」

「はっはっは、そんなつれない事言うなって。俺たちは今遊びてぇから、お前らが戻って来るのをずっと待っていたんだ。嫌と言われようが、付き合ってもらうぜ」


 そう言ってアヴァリスは二人を小ばかにするように笑い、周りのメンバーも棒などを手に持ってニヤニヤしている。どうもかれらは、リクレールとシャルンホルストを集団リンチしようとしているようだった。

 一方シャルンホルストも、リクレールを守るように一歩彼の前に進み、腰に下げている剣に手を添えた。

 士官学校内の敷地で刃のある武器を使って私闘するのは禁じられているが、人数が圧倒的に不利な上に、相手の集団は腐っても成績優秀な生徒たちであり、本気で相手をしなければシャルンホルストと言えども勝ち目はないだろう。

 以前のリクレールだったら、間違いなく戦うことができず怯えることしかできなかっただろうが…………今のリクレールには、アヴァリスたちが全く怖く映らないどころか、滑稽にすら思えた。


(あの強大な魔族と戦った後だからだろうか……僕をいじめていた相手なのに、ちっとも怖いと思わない。僕はこんなしょうもない奴らに馬鹿にされていたのか)

『ここは穏便にお帰り願いましょう。わたくしに全てお任せくださいませ』


 リクレールはエスペランサと念話で今後の事について打ち合わせをすると、シャルンホルストに声を掛けた。


「シャルンホルスト、こいつらの相手は僕とエスペランサに任せて」

「……わかった。ただし、危ないと思ったらすぐに割り込むからな」

「ありがとう……さてと」


 リクレールはアヴァリスに向き直り、不敵な笑みを浮かべて見せた。

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