第7話 聖剣の行方
『さて、主様の記憶を共有させていただきまして、わたくしなりに現在の状況を整理いたしました。昨今は魔族との大規模な戦いが続いたせいで、この国……アルトイリス侯爵家は聖剣アレグリアを振るうために、幾度となく戦場に赴いたとのこと。ご両親は3年前にそろって戦死なされ、そしてお姉さまはつい先日……その上、精強で鳴らした騎士団も戦力の大半を失っていますわ』
「そうなんだよ。今この国は、ほとんど無防備に等しい」
聖剣アレグリアは代々アルトイリス家の女性に受け継がれてきた強力な武器であり、先々代の当主だったリクレールの母親も、先代の当主だった姉のマリアも、若いながら強力な騎士団を率いて幾度となく戦場を駆け回った。
だが、膨大な戦果と引き換えにアルトイリス家の一族は戦死者が相次ぎ、とうとう最後の当主が跡継ぎどころか結婚すらすることなく戦場で散ってしまった。
聖剣アレグリアを受け継げない人物が次期当主になったら、アルトイリス家の存在意義がなくなるというのは、こういった事情があるからだ。
『そして肝心の聖剣アレグリアの所在ですが……この国と懇意にしていたミュレーズ家のご息女セレネ様が、主様のかわりに聖剣に認められ……騎士団の生き残りとともに、魔族軍残党の討伐に赴いている、というわけですわね』
「うん……セレネがアレグリアを受け継いでくれたのは不幸中の幸いだったけれど、やっぱり僕としては少し複雑な気分だ」
ミュレーズ家もこの国と同じく魔族と戦う役割を担う貴族であり、かの家は「聖槍バリエント」を代々の男性当主が受け継いできた。
そして皮肉なことに家の状況もアルトイリス家と酷似しており、魔族との戦いで当主が次々と代替わりした末、セレネの兄にしてマリアの婚約者だったバスチアンもまた先の戦いでマリアとともに戦死した。
だが、リクレールと同じく若くして家を継いだセレネは、リクレールより1つだけ年が上にもかかわらず、小さいころから抜群の剣技を誇り、何度か戦場にも出たことがあるという天才少女だったのである。
セレネとは家同士が仲が良く、歳が近いこともあってリクレールとはとても仲が良かったが、自分が受け継げなかった聖剣に認められたのは正直あまりいい気はしない。
「セレネたちは明日には戻ってくるって言っている。葬儀の準備もあらかた終わったし、そこで改めてセレネにもアルトイリス家を継ぐことを正式に伝えようと思う」
『それがよろしいかと……おや? 誰かこの部屋に向ってきますわ』
「そんなことまでわかるんだ……誰かはわかるの?」
『しばしお待ちを。……ご安心ください、この気配はおそらくヴィクトワーレ様ですわ』
果たして、しばらくもしないうちに部屋の扉が控えめにノックされると、エスペランサの言う通りヴィクトワーレの声が聞こえた。




