第67話 友のために
「なんでシャルまで退学するっていうんだ! 僕と違って、シャルはあと1年で卒業できるのに……さすがにもったいないと思うよ!」
士官学校は一度中退してしまえば卒業資格は二度と得られないし、再入学もできない以上、貴重な講義を受ける機会が失われてしまう。
リクレールもアルトイリス家当主を継ぐことがなければ、もっと士官学校で学んでおきたいことがたくさんあっただけに、シャルンホルストが中退してしまうのはもったいないように思えた。
「俺もそう思ってはいたんだが……西帝国内がきな臭くなった以上、暢気に勉強する気になれん。それに……リク、お前がアルトイリス侯爵を継いで必死に頑張っていると思うと、いてもたってもいられなくてな。しばらくは実地経験を積むのを兼ねて、アルトイリス家の客将として働きたい」
「シャルが、僕の家で……? 確かにすごく助かるけど、そのためにシャルを退学させるのは……」
「申し訳ないという気持ちもわかる。だが、それ以上に俺が、お前の力になりたいんだ。そして、それが実家の……ユルトラガルド家にとっても大きな力になるだろう」
シャルンホルストとしては親友が幼くして侯爵家の当主を継いで必死に頑張っているというのに、自分がのうのうと勉学に励んでいる現状にある種の鬱屈を覚えており、リクレールからもらった情報は、彼に決断を後押しさせるのに十分だった。
「ま、それに寮の同室にお前がいないと、なんとなく寂しい気分がするし、抱き枕代わりに出来ないからな」
「何度も言うけど……あまり僕を抱き枕代わりにしないでほしいな」
「えっ、あなたたちそういう関係だったの!?」
「やだなぁヴィクトワーレさん、冗談ですってば! ただ、どうしても眠れない日にリクを抱いて寝ると、あっという間に寝れらちゃうものですから」
「それは私も分かるわ。リクは本当に抱き心地がいいし」
「トワ姉まで……もう、やめてよ」
どうもリクレールが不思議と抱き心地がいいのは二人の共通認識であるらしい。
リクレール自身はまったく嬉しくなかったが。
(そもそも暴君目指しているのに、抱き心地がいいのが長所とか、似合わないにもほどがあるんだけど)
『まあ、よろしいではございませんか、それくらいはちょっとした愛嬌でございますわ♪ わたくしも主様を抱いてみたくなりましたので、日ごろの感謝を込めて、今晩抱かせていただけませんか?』
(エスペランサまで何言ってんの!?)
リクレールの抱き心地はさておき、西帝国内で内乱の兆しがあることと、それぞれの国がいかにして対抗するかを随時考えていくことで一致した。
3人が話している間にも、リクレールが連れてきた直属兵らが館内の掃除を完了させ、それとほぼ同時刻に市場に行っていたガムランたちが帰ってきた。
「リクレール様、ただいま戻りましたぞ! 目論見通り、いや、予想以上に交易品は飛ぶように売れ、軍資金をがっぽり稼いでまいりましたぞ!」
「えっ、誰お前!?」
「やだなあシャル。ガムランとは何度も顔を合わせてるのに、もう忘れたの? 確かに最近仕事で結構痩せたけど」
「待て待て! あの太っちょガムランが!? こんなイケメンに!?」
「はっはっは、いかがですかなシャルンホルスト様。いつまでも太っちょとは思わないことですな!」
ただでさえ最近は仕事が忙しいせいで体重が落ちていたガムランだが、今回の遠征の最中も自前の馬が潰れたため徒歩でアザンクール山脈のきつい山道を越えねばならず、結果として彼の全身についていた余計な贅肉の大半はそぎ落とされ、元の太っちょの姿とは似ても似つかぬイケメンへと変身を遂げていたのであった。




