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聖剣を継げなかった少年は、魔剣と契りて暴君を志  作者: 南木
第3章 ミュレーズ家からの招待状
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第63話 帝都アルクロニス

 山賊団を退けて以降はさしたる障害もなく、リクレールと行商団たちは無事に東帝国の首都アルクロニスに到着した。

 山を越えて以降も東帝国の街道の治安はあまりいいとは言えなかったが、流石に馬に乗った立派な装備の騎士がずらりと護衛しているのを見れば、賊たちも割に合わないと思うようで、行商団に手を出してくることはなかった。


「はぁ……やっと着いた。なんだかんだで長旅だったな……姉さんが亡くなったと聞いてアルトイリス領に戻った時は、急いでいたから半分の時間もかからなかったけど」

「私も帝都に来るのは久しぶりだわ。みんな変わりはないかしら」


 街道を進むこと25日、リクレール一行の前にようやく東帝国の首都、帝都アルクロニスが見えてきた。

 帝都アルクロニスは広い平野を流れる二つの川を跨ぐようにして広がる超巨大都市であり、遠くからでも目立つ巨大城塞を中心に市街地が二重の城壁で囲まれている。

 そのうえ、近年では帝国南部で魔族軍の襲撃が繰り返されたため、大量の避難民が帝都に押し寄せており、すでに一番外の城壁の周囲にも、無数の襤褸小屋がまるで藤壺がへばりつくように密集していた。


 帝都を囲む高く堅牢な城壁と立派な門を潜り抜け、砂利道が石畳に変わると、リクレールやヴィクトワーレたちは、ようやく長旅が終わるとほっと一息ついた。

 アルクロニスは人類帝国で最も巨大な都市だけあって、活気や人通りの多さはアルトイリス領の町とは比べ物にならず、特に目抜き通りは、東帝国中の商品と買い物客がすべて集まっているのではないかと思えるほどの賑わいだった。

 少し前まではこの都市の近郊に位置する士官学校に通っていたリクレールは、意外にもこの喧騒が好きだったので、暇を見ては市場を物色したものだったが、やはり久々に来ると改めて圧倒される人の多さだった。


「それで、侯爵様。俺たちはどこまでお供すればいいので?」

「この町にはアルトイリス家のタウンハウス(貴族が都市の中に持つ別荘)があるから、帝都滞在中はそこを拠点に活動してもらいたい。交易品を卸すのは明日からでもいいだろうし」

「いやいやリクレール様! ここは某にお任せくだされ! 商売においては時は金なり、すぐにでも交易品を軍資金に換金してまいりますぞ!」

「わかった、そこまで言うならガムランに任せるよ。護衛兵たちも、ガムランと地人兄妹を護衛しつつ、交易品の運搬を手伝ってくれ」


 アルクロニスの交易市は西門から入ってすぐのところにあるので、ゼルモスとカドマーの兄妹とガムランは、休む間もなく馬車に積んだ品物を売りに行った。

 やはり商人は金のことになるとバイタリティーが無限にあふれてくるんだなと、リクレールは内心で妙に感心しつつ、自身はヴィクトワーレとともにアルトイリス家のタウンハウスへと向かった。

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