第62話 山賊雇用
「ドルドと言ったね。君たちさえよければ、条件はあるけど侯爵家の兵士として雇ってあげようと思うんだけど、どうかな?」
「お、俺たちを兵士にですか!? そりゃ、堅気になれるなら願ってもねぇです!」
「リク……それ、本気?」
「流石に山賊を兵士にするとなると、兵の士気にかかわると思うのですが」
「まあまあ、心を入れ替えたというのだから、それがどこまで本当なのかを見せてもらおうと思ってね。で、その条件なんだけど、僕たちはこれから東帝国の帝都に用事があって、帰るのがおそらく二か月先位になると思う。さすがにそんなに長い間、君たちを連れていくことはできないから、君たちには僕が帰りにここを通るまで山賊稼業をせずに待っていてほしい」
「山賊稼業せずに二か月……ですか」
「それと、預かった武器は返すから、その代わりこのあたり一帯に出没する魔族か魔獣を10匹以上討伐しておくこと。この条件がクリアできれば、正式に君たちをアルトリス軍の一員として迎えようじゃないか」
「や、やります! やってみせますぜ!! 俺たちだってやりゃ出来ることをおみせしまさぁ!」
こうしてリクレールは、酔狂にもドルドたち山賊団を条件付きで兵士として雇うという約束をした。
しかも、その場で契約書を作成する徹底ぶりだった。
約束通り一度回収した武器を受け取った山賊団たちは、行商団を襲うことなく根城とする廃砦へと帰っていった。
「なんというか、リクも日に日に大胆になってくわね。私だったら、山賊が降伏を申し出ても受け入れたくないくらいなのに」
「今はなんとしても人手が欲しいから……改心して真面目に働くのであれば、元山賊だったとしても使うくらいじゃないとね」
とはいうものの、リクレールとしても罪のない人々を襲うことを生業とする賊を雇うことはあまり気が向かないのだが、逆にこういったはぐれ者たちにもチャンスがあると宣伝できれば、アルトイリス領で圧倒的に不足している労働力がある程度増えるかもしれないと見込んでいた。
ただ、それとは別にリクレールは若干不安に思うことがあった。
(賊を改心させて仲間にするなんて……暴君目指しているはずなのに、やってることが真逆な気がする……。エスペランサはどう思う?)
『主様、ご心配なく。主様のお考えは決して間違えてはいませんわ。以前お話した通り、暴君とは『結果』ではなく『在り方』なのでございます。人々を恐怖で支配する代わりに、恐怖の前では貴族も平民も賊も等しく扱われ、主様の役に立つ者こそが栄誉を得られるのですわ。それに、主様はすでに「暴君」として認められているがゆえに、あの男たちも頭を垂れ、武器を捨てたのです。このように恐怖とは、時に無用な争いを避けることにもつながることをお忘れなく』
(そうか……暴君になるなんて、ずっと先の話だと思っていたんだけど、ここまで噂が広まった以上、僕はもう「暴君」になってしまったわけか)
山賊の襲撃を退け、再び山風が吹きすさぶ山道を進んでいくリクレールだったが、それと同時に、自分はもう戻れないところまで進んでしまったという、覚悟とも後悔ともつかない思いが生まれるのを感じたのだった。




