第61話 山賊団壊滅?
坂道のすぐ先の隘路では、偵察した兵が言っていた通り薄汚い格好をした男たちが、粗末な武器を片手に通り道をふさいでいた。
「よおニイチャン、随分と小奇麗な格好じゃねぇか、どこかのお貴族様か? 俺たちはこの通り、可哀そうな貧しい人間なんでさぁ、有り金と荷物、全部恵んでいただけないでしょうかねぇ」
おそらく山賊のリーダーであろう禿頭の大男が、わざとらしいセリフでリクレールたちを脅しにかかる。
どうも彼らは獲物を有利な場所で待伏せしようとする知恵はあるようだが、ケンカを売った相手が自分たちの手に負えるかどうか判断するだけの知恵はないようだ。
「あいにくだけど、ただの貧民ならまだしも、人から物を奪うことしか考えていな賊に、恵むものは麦の一粒すらないよ」
「んだと? どうやらお貴族様は痛い目みねぇとわかんねぇようだな……うん?」
子供貴族とみて舐め腐っていた山賊の頭だったが、リクレールがエスペランサを構えたのを見て、急に顔色が変わった。
「なあ……その黒紫の大剣、ひょっとして……近頃アルトイリス侯爵家を継いだっていう、リクレール様では……」
「え? うん、僕がリクレールだけど」
「や、やっぱりっ!! お、お前ら、頭がたけぇぞ!」
そう言うと禿頭の男は、子分たちと一緒に慌ててその場に土下座した。
「も、申し訳ございませんでしたぁ!! ま、まさかあの魔族軍残党を全滅させ、侯爵領の賊たちを片っ端から殺して回ったというリクレール様であるとは露知らず、ご無礼お許しくだせぇ!!」
「……なるほど、僕の噂がこんなところまで届いていたなんて。まあ、降伏するというなら命までは取らない。その代わり、武器はすべて回収させてもらうから足元に捨てるように」
まさか山賊の方から戦わずして降伏を申し出てくるとは思っていなかったリクレールは一瞬あっけにとられるが、彼らが偽装降伏ではなく心から命乞いをしていることはすぐにわかった。
とりあえず、武装解除している間にリクレールは山賊の頭にいろいろと話を聞くことにした。
山賊の頭は名をドルドといい、この近くにある廃砦を根城としてそれなりの規模の山賊を率いて、ほかの山賊団と縄張り争いを繰り広げていたのだが……山賊の勢いが活発化したことで街道を通る行商人が激減し、さらに魔族たちの侵入が重なったことで手下の人数は徐々に減る一方であった。
その上、ついこの前ミュレーズ騎士団によって、アザンクール山脈に大勢住み着いていた山賊団は大半が全滅し、ドルドたちの山賊団も逃げるのに精いっぱいだったという。
もはや遠からずこの地で生きていくことはできないと悟ったドルドは、住み慣れたこの地方から別の地へと移ることを考え、次の根城をアルトイリス侯爵領に定めたのだが……先行して探りに行かせた仲間から、アルトイリス家の時期当主は5000人近くいた魔族軍を、わずか10分の1の兵力だけで皆殺しにしただけでなく、自らに逆らう貴族を片っ端から処刑する冷酷無比な人物だという話を聞いて衝撃を受けたのだった。
「久々に大規模な隊商が通ると聞いて……護衛の人数も俺たちと同じならワンチャンいけるかと思ったんですが、ねぇ……リクレール様の存在を事前に聞いてなけりゃどうなってたか、震えが止まりやせん」
「君たちの事情は分かった。それで、この後はどうしたい?」
「もう俺たちは悪事はしません! 山賊家業からもきっぱり足を洗います! この先どう生きていくかは、まだ何も考えちゃいませんが……せっかく武器もお渡ししたことなんで、アルトイリス領で日雇い仕事でもあれば」
「自分たちから降伏したのは殊勝な心掛けだわ。けど、山賊を信用するのは私はちょっと……」
「ま、まあ、本人たちが働くというのであればよいではないですか! なんなら我が領で鉱山労働者が不足しておりますゆえ、某が雇うのも吝かではないですぞ」
リクレールがドルドと話している間に、ベルサが行商団本隊を連れてリクレールたちに合流した。
流石にヴィクトワーレは山賊をしていた人間を労働者として招き入れるのには難色を示していたが、ガムランはむしろ元山賊だから平気で重労働させられるだろうと考えているようだ。
しかしリクレールは、彼らに別の道を示すことにした。
キャラクターノート:No.024
【名前】ドルド
【性別】男性
【年齢】38
【肩書】アザンクール山脈の山賊
【クラス】山賊
【好きなもの】よく焼いた肉
【苦手なもの】落雷




