表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖剣を継げなかった少年は、魔剣と契りて暴君を志  作者: 南木
第3章 ミュレーズ家からの招待状
60/181

第60話 山脈越え

 翌日、朝早く野営地を片づけたリクレール一行は、再び山道を進んでいく。

 南北に長いアザンクール山脈は、北側こそ秋の中盤ともなれば雪が深く降り積もるが、街道がある南側は冬になっても雪が積もることは稀であり、進むだけならあまり支障はない。

 しかし、時折山の上から叩きつけるように吹き付ける強風は、骨の髄まで凍るのではと思うほど冷たく、山を進みゆく人間たちの体温を一気に奪っていく。

 また、谷間には時折濃い霧が立ち込め、時には昼間ですら数歩先すら見通すことが困難なほど見通しが悪くなる。

 この時期の交易がいかに過酷か、リクレールは身をもって知ることになる。


「う~……さむさむ。まだ秋なのにこんなに寒いなんて、もう一枚着込んで来ればよかった」

「さすがの私もこの寒さは堪えるわ……しかも、帰り道は冬になるはずだから、これよりもっと寒くなるわけよね」

「その点、ガムランはすごいよね。寒がるどころか、汗かいてるし」

「ひぃ、ひぃっ……リクレール様、それはそれがしへの嫌味ですかな……」


 長い登り路に差し掛かったところで、乗ってきた馬が潰れてしまい、徒歩で進まざるを得なくなったガムランが、寒い風の中を汗だくだくで歩いていた。

 一方のリクレールは、寒い寒いと言いながらも、今のところ徒歩でもあまり疲れを感じていなかった。

 これもまたエスペランサの力によるものなのだろう。


「せ、せめて馬車に乗せていただけないだろうか……」

「ごめんよガムランさん、馬車の積載量がギリギリだから、登り路でこれ以上人を乗せたら馬が進まなくなっちゃうんだ」

「ゼルモス兄さまと同じ体重になれば問題ないのですが」

「そんな殺生なぁ……」


 ガムランが心の中で本気でダイエットをしようと誓った時、斥候に出ていた彼の直属兵が報告のために戻ってきた。


「閣下、報告ッス。この先の坂の向こう側で賊の一団が道を封鎖しているッスよ」

「ついにお出ましか。人数は」

「つかみで300人くらいッスね」

「思っていたよりは少ない……けど、坂の向こうということは、私たちが坂道を登り切って疲弊したところを襲う算段のようね。それに、稜線がうまい具合に彼らの姿を隠してくれる……賊は賊なりに考えているということかしら」


 リクレールたちの一団は、直属兵が50名とガムランの私兵が50名、そしてヴィクトワーレの騎士団が200名ほどなので数的には互角のようだ。

 この地形なので周囲には伏兵がいつ可能性があり、それを加味するともっと増えるかもしれないが、だとしても練度の差的にまず負けることはないだろう。


「そのまま攻撃してもいいけど、隊商が巻き込まれるのは避けたい。トワ姉、ここは僕が先陣を切って賊を蹴散らすから、別の方から襲われないように隊商を守っていてほしい」

「わかったわリク。あなたとエスペランサの強さはこの前の魔族軍との戦いで、分かったから負けることはないでしょうけど、念のため私の騎士団から護衛を出すわ。マティルダ、ベルサ、あなたたちはリクにもしものことがあった時に守ってあげて頂戴」

「「はっ」」

『わたくしと主様だけで十分なのですが、それでヴィクトワーレ様の心配が晴れるのでしたら、この子達のお守も承りますわ』

「…………」


 あの夜以来、エスペランサの姿と声がヴィクトワーレにも認識できるようになったが、やはり声が頭に直接響くのには慣れないようだ。

 ともあれ、リクレールはマティルダとベルサをはじめとした騎士50名を引き連れ、行商団より早く坂道を登り切った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ