第51話 侯爵閣下のお昼ご飯
「ふふっ、リクレール様は昔からマリア様のお役に立とうと必死になってお仕事をしてきましたが、しょっちゅうご飯を食べることを忘れていましたわね。そして今日も……お昼の時間は過ぎてしまっていますよ」
「え? もうそんな時間?」
『主様……わたくしからも先ほどから何度も申し上げたのですが……』
(ごめんよエスペランサ)
リクレールはあまりにも仕事に没頭しすぎて、気が付けば正午をだいぶ過ぎてしまっていた。
エスペランサも何度か食事をするよう言い聞かせたが、リクレールは「これが終わったら」とか「もう一枚だけ」といって休憩しなかった。
どうやらリクレールは根っからワーカーホリック気味のようだ。
「食堂でお食事を用意しましたから、きちんと食事をしてきちんと休憩をとってくださいね」
「心配かけてごめんメルティナ。お言葉に甘えるよ」
執務室に食事を運ばず、食堂に食べに来るようメルティナが言ったのも、部屋を移動することで気分転換と休憩をするようにという配慮なのだろう。
リクレールは言われた通りに、館の1階にある食堂に向かうと、大きなテーブルにポツンと用意された料理をありがたく頂戴した。
この日の昼の献立は白パン2つと豆と野菜のサラダ、そして麦を練ったすいとんのようなものと根菜、豆がたっぷり入ったスープに、数切れのチーズという内容で、リクレールはいつものように神に祈りをささげてから黙々と食事をとり始める。
ただ、目の前に出されたメニューについて、エスペランサは若干不満げのようだった。
『主様、これも何度か申し上げておりますが、もう少し栄養価の高い食事を所望してもよろしいのでは? このような内容と量では、明らかに足りませんわ』
(そうかなぁ? 僕はあんまりお腹がすかないし、これでも昔に比べるとだいぶ品物が増えたはずなんだけど)
『ああ主様、おいたわしや……主様は粗食に慣れてしまわれたのですね。ですが、わたくしも主様に力をお貸しするために、主様の体調にも気を配る責務がございます。そのために何度でも申し上げます、主様はもっと食べるべきですわ』
(とは言ってもね……)
基本的にエスペランサの言うことは素直に聞くリクレールだったが、こと食事などのことになるとなぜか若干反抗的になる。
勿論、働けばお腹は空くし、お腹が空けば普通に食事をとるのだが……どうも食欲が常人に比べて明らかに少ない。
食べ物に好き嫌いもなく、しいて言えば肉をあまり食べないが、そもそも食事を「おいしい」と思っていないようで、このことは流石のエスペランサも若干心配になりつつあった。
『何とかして主様にもっと食べていただく方法は……いっそのこと、食事の際もわたくしが体をお借りして、もっと詰め込むというのは』
(そこまでしなくていいからっ! 食べるものくらい僕の好きにさせてよ!)
こうして頭の中でエスペランサと言い合いをしていたリクレールだったが、そんなときに再度メルティナがリクレールのところにやってきた。
キャラクターノート:No.020
【名前】メルティナ・アンクール
【性別】女性
【年齢】41
【肩書】アンクールの町 町長
【クラス】マルムゼ
【好きなもの】何もない雨の日
【苦手なもの】ティータイムの邪魔




