第5話 忠誠心
あの後リクレールから役目を指示された家臣たちだったが、突然様子ががらりと変わったリクレールの様子に困惑しっぱなしだった。
「あの、サミュエル殿……」
「いかがしたかガムラン」
家宰サミュエルに声をかけたのは、先ほど大広間でリクレールのことを懐疑的に思っていたでっぷり太った文官ガムランだった。
「リクレール様の様子が普段とはかなり違うように感じ、少々不安になってしまいまして……」
「……なるほど、そなたの言うことももっともだ。あれほどお優しく、虫の一匹も殺せないようなリクレール様が、なぜあのような苛烈な真似をなさったのか」
「私が思うに、あの得体のしれない剣が、なにかリクレール様に良からぬ影響を与えているのではないかと。サミュエル殿も、あの件について何かご存じはないので?」
「ああ、某も初めて見た。アルトイリス家に仕えて随分と長くなるが、あのような恐ろしい見た目の剣がこの城に安置されていたなど全く知らなかった。そなたの言う通り、あの剣が何かのきっかけを作った可能性も捨てきれない」
「なんだか嫌な予感がするのですが……本当に、サミュエル殿はリクレール様を次期当主として尽くすおつもりで」
「当然だ。確かにリクレール様は変わられたが、それが悪い方に変わられたと判断するのはまだ性急だ。それに、何よりリクレール様が幼少の頃より、今は亡き先々代当主様より養育を任されてきた。たとえ変わろうとも、某はあの方に老い先短い忠義を全て捧げるつもりだ。そなたもそのつもりで仕事に励むのだ」
「はぁ、承知いたしました」
このように、ガムランたちをはじめとする家臣たちは、空気に飲まれて忠誠を誓ったものの、やはり心からリクレールを信じているわけではなかった。
特にガムランは、貴族ながらもその特殊な出自ゆえに、リクレールを当主に抱くことが自分の利益につながるかどうかをすぐに頭の中で計算し始めた。
(もしリクレール様が次期当主の座を追われぬために虚勢を張っているとすれば、癪ではあるがあの男と手を組み、場合によっては侯爵の座から降りていただくことも考えねばなるまい。だが……)
ガムランにとって新しい当主に最優先で求めるのは、自らの利益をどれほどまでに追求できるかどうかでしかない。
サミュエルのように、自分の家の利益を度外視してまでも、アルトイリス家に肩入れする必要性が彼には感じられないのである。
名門侯爵家配下の貴族と言えども、見返りがなければ忠誠をささげる気にならない貴族は珍しいものではない。しかし、ガムランは良くも悪くも、ほかの貴族たちと根本的に思考が異なっている部分があった。
(もしリクレール様が本物であるならば……ほかの有象無象共を出し抜ける大きなチャンスでもあるわけだ。何しろほかの貴族どもは保身のことしか考えていないからな)
でっぷり太った悪人顔の貴族は、何かよからぬたくらみを思いついたかのように不気味な笑みを浮かべるのだった。
キャラクターノート:No.004
【名前】サミュエル・ヴァレンティエール
【性別】男性
【年齢】62
【肩書】アルトイリス家家宰
【クラス】カタフラクト
【好きなもの】忠義 体操
【苦手なもの】老人扱いする者




