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聖剣を継げなかった少年は、魔剣と契りて暴君を志  作者: 南木
第3章 ミュレーズ家からの招待状
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第49話 新侯爵家の始まり

 サバチエ伯爵ラクロとその一族が反乱を起こした末に粛清され、その後もいくつかの貴族がばらばらに反乱を起こしたものの、リクレールはそれらを速やかに討伐し、一人残らず処刑した。

 人々は新しい当主の大粛清劇に恐怖し、これからどのような波乱が待ち受けているのか戦々恐々としていたが……残りの貴族が反乱を起こす気配はなく、アルトイリス伯爵領はここ数日のごたごたが嘘のように穏やかさを取り戻した。

 連日戦い詰めだった兵士たちもようやく解散命令を出され、追加の報酬を受け取ってそれぞれの家へと戻っていった。


「あー働いた働いた。生きて帰ってこれて本当によかったよ。お金もこんなにたくさん貰ったから、しばらくは食べるものに困らないね」

「僕はもう戦いはこりごりだよ……お金貰っても、もう一回戦場に行くのはごめんだ」

「それにしても、魔族軍や反乱軍相手に先頭で戦ってたリクレール様、すごくかっこよかったな……故郷の人たちにも話してあげないと」


 帰路を行く兵士たちの表情は様々で、単純に予想をはるかに上回る褒美をもらえてホクホク顔の者もいれば、くたくたに疲れ切った者、そしてリクレールが見せた奮戦が忘れられず興奮する者もいた。

 彼ら帰還兵たちからそれぞれの故郷に戦いの話が伝わり、すぐにそれが周囲に広がった結果、次のアルトイリス侯爵家当主も前代に負けず劣らずの猛者だということが人々に知れ渡った。

 当主が急死したという話を聞いていたアルトイリス侯爵領の人々は、ここ数日間どうなることかと不安でいっぱいだったうえ、魔族軍残党が隣国で暴れているという噂を聞いて恐怖に震えていたが、新たな当主がそれらの不安をあっという間に打倒して見せたことで、領民たちもまた安心することができたのだった。

 ただ、一部では強いというだけでなく、例え身内であっても容赦しない残酷な一面があるという話も広がっている。


「あのサバチエ伯爵が侯爵家に反乱を起こした罪で、一族全員が処刑されたそうだ。ラクロたちの首が、城下町の広場に晒されているらしい」

「うちは何とか兵をかき集めて供出したから褒美をもらったが、従わなかった家は命令違反で全員領土を没収されたよ……リクレール様に盾突こうとした貴族は、地下牢に閉じ込められた上に全財産を接収されたらしい」

「まったく、ラクロの話に乗らなくて助かったわい。だが、今後も命令に従わなければ、明日は我が身ということか」


 アルトイリス家に仕える大小の貴族たちは、かつての家臣たちを平然と処刑する新しい当主の乱暴さに眉をひそめたが、実際に不満を現した者たちがあっという間にこの世から退場させられたの見た以上、反乱を起こそうという気は全く起きなかった。

 彼らはリクレールの不興を買って粛清されないためにも、今まで通り……いや、今まで以上にアルトイリス家のために働くほかなかった。


「とはいえ、戦場に行った兵士たちの話では、リクレール様は5倍以上の魔族軍を鮮やかな作戦で皆殺しにた上、自ら魔族軍の将を討ち取ったとか。正直信じられないが、勝ったのは確かなようだし、その実力があればしばらくはこの国も安泰だろう」

「そうだな……結果を出せば、きちんと報いてくれるようだし、そこまで悪い話でもあるまい」


 そんな人々の思惑をよそに、リクレールは戦い続きの日々がひと段落した後も、怠けることなく誰よりも精力的に働いていた。

 当主がなすべき業務の引継ぎも完全には終わっていないし、城を不在にしていた期間がそれなりに長かったせいで、領内の陳情もかなり溜まっている。

 ただ、それ以上に辛いのは……今まで積極的に手助けしてくれたヴィクトワーレとシャルンホルストが、そろそろ自分の領地や学校に戻らなければならないことだった。


「ごめんなさい、リク。あんなことを言っておきながら、ずっと傍にいるわけにはいかなくて」

「ううん、僕の方こそ、トワ姉に頼りきりさったから、コンクレイユ伯爵にあとでお詫びしておかないと」


 ヴィクトワーレ自身はリクレールが望むのであれば、いつまでも手助けしてあげたいのは山々だったが、彼女が率いている騎士団はあくまで実家のものなので、彼女がずっと借りっぱなしというわけにはいかない。

 それに、ヴィクトワーレ自身もコンクレイユ侯爵家の一員として、やらなければならない仕事がたくさんあるのだ。


「リク、悪いが俺は先に学校に戻る。とうとう校長からうちの親父経由で警告が来てな、両方から散々怒られちまった」

「シャルも、いてくれて凄く助かった。たぶん僕は学校をやめることになると思うけど、時々は会いに行くから」


 リクレールは家の事情でこれ以上士官学校に通うことはほぼ不可能だろうから、学校側も特に何も言いてこないが、シャルンホルストは両親も実家も問題ないのに勝手に休学届を出してきたものだから、親も先生もカンカンのようだった。一刻も早く戻らないと、留年どころか退学処分もありうる。

 こうして、リクレールにとって非常に頼りになった二人がそろってアルトイリス城を後にしたことで、リクレールの負担は一気に増すこととなった。

 幸い、家宰のサミュエルや、粛清された貴族たちに代わって実権を握り始めたガムラン、それに本格的に兵の訓練を始めたアンナなど、それなりに頼れる家臣も何人かいることはいるが、やはり人材が数も質も絶望的に不足していた。


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