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第46話 夜中の訪問者

「リク、まだ起きる?」

「え? と、トワ姉!?」

『む……せっかくいいところでしたのに』


 控えめなノックの音とともに、扉の外からヴィクトワーレの声が聞こえてきた。

 リクレールが慌てて姿勢を整えると、エスペランサは不満そうにしながらも姿を消した。


「入ってもいいけど…………どうしたのこんな夜遅くに? 何かやり残した仕事あったっけ?」

「ううん、違うの。今夜も……ううん、今夜こそ、リクと一緒に寝たいと思って…………」

「え?」


 その言葉とともにゆっくりと入室してきたヴィクトワーレだったが、その姿はいつもの凛とした服装ではなく、寝るためのパジャマ姿だった。

 しかも、今までリクレーヌが見たことの無いような女の子らしい、フリルをふんだんに使ったネグリジェ姿だった。


「うわわ……と、トワ姉どうしたのその格好!? その、すごく可愛いけど……」

「あ、ありがとう。似合ってないって言われたらどうしようかと思って」

「そんなことないよ、すごく似合ってるっ!」


 ヴィクトワーレは恥ずかしそうに頬を赤く染めながら、もじもじとしているが、リクレールはそんな彼女の姿に思わず見とれていた。

 今までも何度かヴィクトワーレにドキドキさせられることはあったのだが、今の彼女はいつもとまるで違う雰囲気で……そのギャップがまたリクレールをドギマギさせるのだった。


(やった、リクに可愛いって言ってもらえた! マティルダ、ベルサ、グッジョブ………じゃなくって!)


 嬉しさのあまり本来の目的を忘れそうになったヴィクトワーレだったが、いったん心を落ち着かるために「んっ」といったん咳払いすると、改めて真剣な表情でリクレールと向かい合った。


「リク……何度もしつこくてゴメンなさい。でも、これだけは言いたいの。リクは、これ以上戦場に出ないでほしい」

「ええっ!? なんで……やっぱり僕の戦い方は何かまずかった!? そりゃあトワ姉のように実戦経験が豊富ってわけじゃないし、何人か味方の犠牲は出しちゃったけど、これからしっかりと戦いのことも剣の使い方も、しっかり学ぶから!」

「ううん、違うわ。私が心配しているのは……これ以上無理したら、リクが壊れてしまうんじゃないかって思って」

「壊れる……僕が?」

「だってほら」


 ヴィクトワーレの右手がリクレールの頬をやさしくなでる。


「リクは昔から体が細くて心が繊細で……まるでガラス細工のようだった。今もほら、こんなに窶れて……」


 リクレール自身、忙しすぎて最近の自分の姿を鏡で見ることができなかったが、目の下に隈がくっきりと浮かび、頬は痩せこけて、手や腕の肌が荒れ、爪も細かい凹凸が目立っている。

 大多数の家臣や兵士たちは、戦場で先頭に立ち剣を振るうリクレールの姿を見てとても頼もしく見えただろうが、ヴィクトワーレには彼の外見も内面も、ボロボロに疲れ切っているように見えた。


「もちろん、リクが無理しようとする気持ちもわかる。マリアが亡くなって、侯爵家が分裂寸前になっている中で、魔族軍残党とも戦わなくちゃいけないから、強引に……それこそ魔剣の力を借りてでも家臣たちをまとめなきゃいけないことも。けど……こんなことを続けてたらみんなの恨みを買うし、リクの心も病んでしまう。だから、できるのならば私が、リクの代わりに敵を倒すし、憎まれ役にもなってあげたいの!」

「トワ姉……」

『ふぅん、なるほど……ヴィクトワーレ様はそこまでの覚悟がございますのね』


 ヴィクトワーレの言葉は、受け取り方によっては遠回しな婚約要求にもなりそうだったが、エスペランサは嫉妬するかと思いきや、もっと別の利用方法を思いついたようだ。


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