第44話 不平貴族討伐戦 7
「リク、反乱軍はほとんどが武器を捨てて投降するか逃げ出したみたい。私たちの勝利よ!」
「お見事ですリクレール様、まさか本当にほとんど刃を交えることなく城を陥落させるとは。こちらが失ったのは松明と矢だけですから、完勝と言ってよいでしょう」
「ありがとうトワ姉、アンナ。ラクロを生け捕りに出来なかったのは残念だけど、それ以外はすべてうまくいった。この後もしばらくは領地を没収した貴族たちが反乱を起こすかもしれないけど、大半の家臣たちには程よい見せしめになったんじゃないかな」
反乱軍の首謀者ラクロとその一族が死亡したことで、戦いは完全に決着し、アルトイリス軍は1人のけが人も出すことはなかった。
武装解除した傭兵の大半はそのまま逃亡したが、中には雇い主がいなくなったことで給金が貰えなくなったので、アルトイリス軍で雇ってほしいと申し出る者もいた。
正直戦力としてはほぼあてにならないが、とりあえず今は兵力が不足気味なので、一時的に雇ってあげることにした。
「そういえばガムランの姿が見えないけど、どこに行ったんだろう」
「リクレール様ーっ、ただいま戻りましたぞーっ!」
「リクレール様、サバチエ伯爵とその一族全員の死亡を確認いたしました」
今回の一番の功労者であるガムランがどこに行ったのかと確認しようとしたところ、彼はホクホクの笑みを浮かべながら、ラクロとその一族の検死をしていたサミュエルとともに戻ってきた。
「城内に残った兵たちの武装解除をしていたんだっけ? 結構時間かかったね、まだ抵抗する敵兵がいたとか?」
「その通りですぞ! 我が兵は金庫と宝物庫の調査に向かったところ、武装解除を行わない敵がいた上に、抵抗いたしましたのでその場で処断いたしました! もちろんわが軍に被害はございませんぞ!」
「あなたは相変わらず抜け目ないのね……」
どうやらガムランは自ら兵を率いて、金庫と宝物庫を略奪しようとした傭兵や徴募兵たちを全滅させ、勝手に持ち出されるのを防いだらしい。
これもお手柄と言えばお手柄だが、真っ先に金を確保(して、おそらく一部は横領)しに向かったそのがめつさに、アンナはややあきれていた。
「サミュエル、ラクロやその家族たちの状態はどうだった?」
「はっ、一見すると城内に追い詰められた彼らが毒酒を飲んで自害したようにみえますが、おそらく何者かに毒で口封じされたと思われます」
「口封じ……どうしてそれがわかったの?」
「一族や召使だけならまだしも、部屋に突入し、伯爵を生け捕りにしようとしたと思われる傭兵たちが部屋の中で苦しんでおり、その後絶命いたしました。おそらくは毒霧の類ではないかと思われ、安全を考慮し暫く部屋には立ち入ることができませぬ。ですが……このような急場しのぎの証拠隠滅まで行ったところを見ますと、何者かがサバチエ伯爵家の反乱を裏で支援、または糸を引いていた可能性がございます」
「そうだね。僕も今回のラクロの動きには少し思うところがある……」
問題なのはその裏で支援していた人物の正体や目的だが、残念ながら今のリクレールにそれを突きとめる手段はない。
一応、心当たりが全くないわけではないが…………決めつけるには証拠が少なすぎた。
「リクレール様、某の方でもしばらくほかの領内の動きを探っておきます」
「ああ、助かるよサミュエル」
こうして、その日の夜遅くまで続いた反乱軍討伐は完了し、リクレールはサミュエルらとともにほぼ夜通しで戦後処理を行った。
戦いがほぼ損害なしで終わったうえに、領主がいなくなっても領民たちは比較的落ち着いていたので、リクレールたちは次の日の夕方前にはアルトイリス城へと帰還することができた。




