第43話 不平貴族討伐戦 6
「東門の奴らが降伏した……! 敵がもう城内に入ってくる!」
「だめだ、もう終わりだ! 僕は降伏する!」
「聞いたか、ラクロを生け捕ったら大金がもらえるらしいぜ! 生け捕って褒美をもらうぞ!」
「それよりも、今のうちに城の中のめぼしいものをもってっちまえ! どうせもう給金は支払われないからな!」
東門の兵が降伏したと聞いたほかの部隊の兵士たちも、次々に降伏するか、火事場泥棒に向かうか、ラクロを生け捕って特別ボーナスを得るか、いずれにせよ戦う気は完全に失ったようだ。
僅かながらも、ラクロに忠誠を誓う兵士たちがこの混乱を治めようと必死になったが、軍の8割以上が傭兵と徴募兵である以上、圧倒的な数の差を前に次々に先ほどまでの味方に殺されていった。
そして…………
「くそっ、くそっ、なぜだ……使えぬ能無しばかりだ! 金に目のくらんだ卑しい下民どもも傭兵どもも、くたばれ!」
一転して雇った味方に命を狙われる立場となったラクロは、場内にいる一族や使用人たちと共に、慌てて城の奥へと避難することなった。
この城には秘密の隠し通路などという気の利いた物は存在しないので、もはやこの城から逃げ出すのは不可能なのだが……彼は一縷の望みをかけて、城の一番奥の部屋の窓から城壁を伝って、何とかして秘密裏に脱出しようと考えたのだった。
そんなラクロが城の一番奥にある物置部屋までたどり着いたところで、見覚えがある人影がいることに気が付いた。
「お、おお! バラドワイズ殿! まだいらっしゃったとは……助かった!」
「…………」
そこにいたのは、増援の手配をしに行ったはずのバラドワイズだった。
増援を呼びに行ったのになぜまだここにいるのかという疑問はあるが、ラクロにとっては彼女がこの場にいることの方がよっぽど都合がいい……はずだった。
しかし、バラドワイズは無言で袂から緑色の球のようなものを取り出し、床に無造作に放り投げた。
なぜ彼女がそのようなことをしたのか疑問に思う間もなく、突如として球からブシューッという噴出音とともに、緑色のガスが猛烈な勢いで噴出した。
「ゲホゲホッ、なんだこれは………ウゴッ!?」
「毒だ! 毒が……!」
「た、助けて……し、死にたくない」
ガスを吸ったラクロをはじめとした彼の家族と召使、そして護衛の兵士たちが次々とその場に倒れ伏し、すぐに口から血の泡を噴出して息絶えていく。
「バ、バラドワイズ殿……なぜ……?」
ラクロは何とか気合で意識を保ち続けていたが、もはや指先すらまともに動かすことができず……かろうじて弱々しく言葉を発することしかできなかった。
だがバラドワイズはラクロの質問に答えることなく、あたりに空の盃とワインの染みを残すと、そのまま窓の方へ歩いていき……城の外へ姿を消した。
ラクロは最期の瞬間に、ようやく自分が騙されていたことに気が付いたのだが、そのことを後悔する間もなく意識を手放した。
それからすぐに、ラクロを生け捕りにしようと追跡してきた傭兵たちが部屋に突入してきたが、そこにはすでに生きている者はいなかったという。
キャラクターノート:No.019
【名前】バラドワイズ
【性別】女性
【年齢】??
【肩書】サバチエ伯爵家の顧問政務官
【クラス】コンジャラー
【好きなもの】他人を操ること 人形劇
【苦手なもの】檜花粉




