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第41話 不平貴族討伐戦 4

 そんなこんなで準備が進むうちにすっかり夜になった。

 サバチエ城の周囲は、月があまり照っていないこともあって、人の目ではほとんど見通せないほどの闇に包まれている。


「見張りの兵士たちよ、油断するでないぞ。奴らが夜襲を仕掛けてくる可能性もあるからな」


 ラクロはそう言って夜中でも警戒を怠らないよう伝えると、自身は一度休むために私室に戻っていった。

 見張りを任せられた傭兵たちは、ラクロの姿が見えなくなると、煩いのがいなくなったと言わんばかりに表情を緩め、仲間たちと私語を交わし始めた。


「なあ……俺たち本当にこっち側についてよかったんだろうか?」

「よかったもなにも、一度契約したからには戦わなきゃダメだろ。ここで頑張らないと、報酬が出ねぇし、何より生き残れないぜ?」

「そりゃあそうなんだけど……相手は数倍いる魔族軍の大軍をたった一日で撃破した精鋭だって噂だろ? それに、ラクロ様はアルトイリス侯爵家の後継者のなりそこないは弱いって何度も口を酸っぱくして言ってたが、聞いた話じゃ、子供のくせにデカい剣振り回して、家臣を何人も惨殺したとか……」

「そ、そんなのタダの噂だろ……いくら何でもさすがに、うん……?」


 彼らが話していると、城壁の外に広がる闇の中で赤い灯りが徐々に点っていき、無数に広がっていくのが見えた。

 一瞬山火事かと思われたが、よく見ればそれは松明の火であることがわかった。

 しかもその数は尋常ではなく、数分もしないうちに城の周囲はあっという間に大量の松明の灯りに覆い尽くされてしまった。

 そして、どこかでホイッスルが鳴ったのを皮切りに周囲から大きな喚声が上がると、大量の松明の灯りはゆっくりと城の方に向ってくるではないか。


「て、敵襲だ!」

「ものすごい数だ……い、いったいどれくらいいるんだ!?」

「下手したら1万人いるんじゃないか……? こんなに大勢に攻められたら、この城は持たないぞ……!」


 見たこともない数の松明の灯りを見た籠城側の兵士たちは、敵兵が自分たちの何倍、下手したら十数倍いるかもしれないと考え、大いに震え上がった。

 エスペランサの言った通り、ただでさえ夜の闇で正確な敵の数と位置がわからないのに、予想をはるかに上回る数の敵が押し寄せてくるように見えるのはとてつもない恐怖である。

 その一方で、攻城側のアルトイリス軍では、一人4本ずつ松明を背負って兵士たちの中で、青いフードとマフラーに身を包んだアンナが、この光景を見て思わず感心したようにつぶやいていた。


「松明の灯りで見た目の兵力を水増しする……か。ここまでの弱兵を相手したことがなかったから、正直、そこまで効果があるとは思えなかったけど、守備兵は動揺しているようね」


 人生における戦いの大半が魔族軍相手だったアンナは、傭兵と徴募兵で構成された一地方の貴族軍などという存在を相手にしたことがないため、かえってこういったこけおどし戦法に効果があると思っていなかった。

 そして、戦いの前にリクレールが各部隊長に語っていた「戦わずして勝つ」というのも、アンナにとってまだいまいちピンと来ていない。


「まあいいわ、たとえ失敗しても私たちが主力となって敵兵を打ち抜けばいいわけだし。リクレール様の御手並み拝見といきましょう」


 そう言ってアンナは、鏃に油紙を巻き付けて点火した火矢を弓に番え、夜の天高く放った。

 そして、それを合図に部隊のあちらこちらから城に向けて続々と火矢が撃ち込まれ始めた。

 闇を切り裂く流星のように、オレンジ色の軌跡を描いて撃ち込まれる火矢の大半は守備兵に当たることはなかったが…………一部は城内の木造建築物や植物に命中し、城のあちらこちらで小規模な火災を発生させたのだった。


「ま、まずい! 早く火を消せ!」

「誰か、早く領主さまに敵襲を知らせるんだ!」

「あいつらは本気だ! このままじゃ……こ、殺されるっ!?」


 大軍のように見える敵に怖気づいていたところに、さらに四方八方から火矢を撃ち込まれ、火災まで発生したことでサバチエ軍は一気に混乱し始めた。


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