第37話 粛清
リクレールたちが反対派貴族たちの処遇について話し合っている間、魔族軍残党討伐戦に参加した兵士や貴族たちには続々と褒美が配られていたが、その一方で褒美を受け取った後もまだ軍を解散してはならないと命ぜられていた。
「ご褒美、思ってたよりたくさん貰えたぞ! これで家族にいいもの買ってあげられるな!」
「私もよ! 留守部隊の人たちが羨ましそうにこっちを見てるけど、私たちが頑張った戦果なんだから分けてあげないもんね」
「けどよ……まだ帰っちゃダメなのか? 戦いはもう終わったんだろ? 僕はもう疲れたんだけど」
彼らは予想より多くもらえた報奨金に大喜びしつつ、その一方でなかなか帰してもらえないことを徐々に不安に思っていた。
一応、待機している間は兵舎で休んでいいと言われていたが、出来ることならすぐにでも家に帰りたいのが実情だった。
ところが、そんな兵士たちの希望もむなしく、彼らの次の仕事がすぐに始まろうとしていた。
「新たなるアルトイリス侯爵リクレールの名のもとにおいて、以下の12名は侯爵家の一員としての役目を果たしていないため、その所領を没収する」
謁見の間に揃った家臣たちの前でリクレールが半数の貴族から領地を取り上げることを宣言すると、彼らは驚愕し慌てふためいた。
「そ、そんな! 突然我が家の所領を没収など、あまりにもご無体なっ!!」
「どうして……どうして……」
所領を没収された貴族はすべて、先日のリクレールの命令に逆らって兵士や物資の提供を拒んだ貴族たちだった。
やはり彼らは甘く見ていたのだ、まさかリクレールがそこまですることはないと。
「し、しかしリクレール様! 彼らはリクレール様の実力に懐疑的だったとはいえ、一度の命令無視で所領の没収は行き過ぎでは……!」
「彼らの中には我が家の親類も含まれております……私から説得し、二度と逆らわせないことを誓わせますゆえ、なにとぞ寛大な処置を!」
ただ、反対派だけではなく、きちんとリクレールに従っていた貴族の中からも止める声がちらほらと上がった。
リクレールに対する忠誠心の違いはあるとはいえ、同じ貴族が所領没収の憂き目にあうのを見ていられない者もいれば、親類縁者が処罰の対象になることを恐れる者もおり、何とか穏便に済ませられないかと懇願した。
「アルトイリス家にとっての一番の敵は姉さんを初め、父さんや母さんを殺した魔族軍には違いない。けれども、自分たちの繫栄ばかり考え、侯爵家に力を尽くさなかった者たちも、間接的に姉さんを殺した憎き仇だ。敵を利するだけの存在は、これからのアルトイリス家には不要。そして、彼らをかばう者がいればまた同罪とする」
しかしリクレールは聞き入れない。どころか、処罰される者をかばう者まで同罪とするとなると、流石に表立ってかばう者はいなくなった。
「名前が挙がった者たちは、可及的速やかに身辺整理を行い、領地を侯爵家に返納すること。従わない場合は反乱とみなし、即座に陣圧のための軍を派遣する」
「……けるな」
「ん?」
「ふざけんなっつってんだろ! 当主に就任したからって調子に乗りやがって!」
「そ、そうだそうだ! この暴君め! お前なんかに誰が忠義を尽くすというんだ!」
「こんな理不尽な命令には従わない! 我々は断固――――」
処罰の対象となった貴族の一部は、追い詰められたことで頭に血が上ったのか、何も考えずにリクレールに食って掛かろうとした。
だが、罵倒の途中で魔剣エスペランサを喉元につきつけられたことで、あっという間におとなしくなった。
「サミュエル、この者たちを牢獄へ閉じ込めておけ」
「はっ」
サミュエルはあらかじめ控えさせていた衛兵たちを呼び出すと、リクレールに逆らおうとした貴族たちを拘束し、そのまま牢獄へと連行していった。
この光景を見た家臣たちは、改めてリクレールが本気であること知り、内心はどうであれ表面上はこれ以上逆らうことはなくなった。
所領没収を言い渡された貴族たちも、今はもうどうすることもできず、とぼとぼと城を後にしていった。




