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第36話 内なる敵

「リクレール様、人払いが済みました」

「戻って来て早々内密の話ね……嫌な予感がするわ」

「というか俺たちはアルトイリス家の人間じゃないんだけど、聞いていいのか?」

「むしろ、今は二人の方が信頼できるから、話しておきたいんだ。アンナ、早速報告をお願い」

「はい。リクレール様からの意向で各貴族家の情勢を調査していましたが、やはりと言いましょうか、一部で反乱の準備が進められています」


 反乱と聞いて意外にも驚いた反応を見せた者はいなかった。

 あの時点でほかに後継者はいないとはいえ、リクレールはかなり強引にアルトイリス家の当主となったので、彼を当主として認めたくない貴族はまだ大勢いるのだから、リクレールの留守中に蜂起する可能性は十分考えられた。


「かなり前からアルトイリス家に対して不穏な空気が流れており、貴族たちの軍備は着々と進められていました。しかし、いざ事が起これば反乱勢力が逆に鎮圧されてしまうだろうという見立てでした」

「そうですな。リクレール様が主力の大半を率いて遠征に向かったとはいえ、アルトイリス城にアンナ殿がおられる限り、迂闊に手は出せませぬ」


 大方の予想通り、反乱の準備を進めていたのは先の遠征に兵や物資を拠出しなかった貴族たちであり、彼らは機を見てアルトイリス城を包囲し、可能ならば占領してしまうつもりだったのだろう。

 ところが、アンナとその配下の強力な弓兵隊が城に残ったことと、兵の提供が遠征の出発に間に合わなかった分を彼女の指揮下に組み込んだせいで、アルトイリス城を迂闊に攻撃することができなくなった。

 さらには苦戦するだろうと思われた魔族の残党の討伐戦がわずか1日で終わったことで、このまま反乱を起こすか決断できないうちにアルトイリスの主力軍が戻ってきしまったことも想定外だっただろう。


「まだ僕のことを甘く見ていたんだろう。そのせいで彼らは今退くことも進むこともできない立場にある。この機会を逃す手はない」

「リク……まさか」

「やるんだな、不平貴族たちを」

「今こそアルトイリス家の膿を出す時だ……この機会に徹底的に粛清する。手始めに彼らの領土の没収し、逆らうのであれば反乱の意志ありとみなして攻め滅ぼす」


 リクレールがそう力強く語ると、ほかの者たちも覚悟はしていたのか、おおむね反対意見は出なかった。

 ただ、ヴィクトワーレだけは少し複雑そうな顔をしていた。


「私も反対するわけじゃないんだけど、リク自身は大丈夫なの? 聞いた限りだと、中にはマリアやリクと仲が良かった貴族や、領内でもそれなりに有力な家もたくさんあるみたいだし」

「きちんと貴族の役目を果たすのであれば問題なかった。役目を放棄したうえに、当主にたてつくのであれば、もはや敵だ」


 リクレールからは、まるで魔族を前にしたときのような恐ろしい雰囲気が漂っていた。

 だが、明確な敵である魔族と戦うのはまだしも、本来であれば味方であるはずの貴族たちを殺すとなると、心優しいリクレールにとっては精神的に相当堪えるだろうとヴィクトワーレは感じていた。


(マリアの死からいきなりの当主就任、その後すぐに何倍もの魔族軍相手に戦って、休む間もなく反対派貴族の粛清……か。リクは私たちの前でも強気になっているけど、とても辛いはず。マリアの代わりにお姉さんになった私にできることはあるだろうか)


 アリアからは別に「代わりにリクレールの姉になってくれ」とは言われていないが、ヴィクトワーレの中では既に自分はマリアの代わりにリクレールを守る立場であると確信してしまっているようだった。

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