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第33話 初勝利

「リクレール様、わが軍の被害ですが、戦死者は24名……戦闘不能となった重傷者は61名とのこと」

「……っ、包囲したとはいえ、さすがに倍以上の魔族と戦ったから被害が大きい。シャル、すまないけど兵士たちの治療を急いでくれ」

「ああ、術士たちにはすでに治療を命じてあるが、彼らも働きっぱなしで疲弊してきている。ある程度めどが立ったら、モントレアル城で休ませた方がいい」

「そうね、今は勝利に沸き立っているから疲れを誤魔化せているけど、兵士たちは連戦続きでお昼も摂っていないから、直ぐに限界が来るはずよ」


 ヴィクトワーレたちの言う通り、今は勝利したことの喜びで兵士たちは元気そうに見えるが、彼らの大半は碌に訓練を積んでいない徴募兵なので、そろそろ活動限界が近い。濃い疲労を自覚する前に、彼らを休ませなければならない。

 都合がいいことに、合流したモントレアル侯爵軍の指揮官はリクレールがよく知る人物だったので、すぐに話をすることにした。


「ヘリクソンさん、お久しぶりです」

「なんと、リクレール様ではございませぬか! まさかアルトイリス侯爵家の弟君が軍を率いていたとは、お会いしないうちに随分とご立派になられましたな!」


 ヘリクソンと呼ばれた、全身を鎖帷子で覆った髭面の屈強な壮年の男性は、軍を率いてきたのがリクレールだったことに大いに驚いていた。

 リクレールがヘリクソンと最後に顔を合わせたのは3年以上前で、ちょうどリクレールが士官学校に入る直前ごろのことだったが、そのころのリクレールはあまりにも虚弱で線が細かったため、ヘリクソンは彼が士官学校に入っても長続きしないだろうくらいにしか思っていなかった。

 それがいつの間にか、城を包囲していた魔族の大軍を撃破するまでになったのだから、驚くのも無理はない。


「積もる話はありますが、今はとにかく、兵士たちを休ませてあげたいんです。モントレアル侯爵にお願いできますでしょうか」

「承知しました。むしろ、わが軍が不甲斐ないばかり魔族軍を撃退していただいたのですから、そのくらいはして然るべきでございます。すぐに伝令に伝えさせましょう。けが人もおられるようですな。我々はまだ余力がありますゆえ、遺体と怪我人の収容はお任せくだされ」


 こうしてアルトイリス軍は、ヘリクソンの手配によってモントレアル城で休息をとることとなった。

 リクレールは一時的に軍の移動をサミュエルとシャルンホルストに任せると、代わりにある人物に声をかけた。


「ガムラン……とりあえず、お疲れ様」

「ひぃっ……ひぃっ、リクレール様ぁ、も……もう戦場は懲り懲りですぞぉ~……」

「うちのご主人様がもうしわけねっす。本当に何しに来たのやら」


 運動不足なのに重い鎧を着こんできた結果、戦う前にばててしまったガムランは、とうとう呆れられた部下たちの手によって物資を運ぶための荷車に乗せられてしまっていた。

 そんな、一見何の役にも立たなかったかに見えるガムランだったが、リクレールはむしろここから先が彼の仕事だと考えていた。


「とりあえず、戦いは終わったから君たちも城に入って昼食を食べてもらうんだけど、休んだ後にやってほしいことがある」

「やってほしいことっすか?」

「君たちの兵士はまだ余裕がありそうだから、このあたりに散らばった『戦利品』の回収をお願いしたい」

「戦利品の回収ですと!!」


 リクレールが「戦利品」と言ったのを聞いて耳を大きくしたガムランは、急に起き上がり、着ていた鎧をあっという間に脱いで、荷車から飛び降りた。


「お前たち、ぐずぐずするでない! このあたりに散らばっている魔族軍の武器と防具を全部回収し、死体も残らず漁り尽くすのだ!!」

「はぁ、今からっすか? せめてメシ食ってからでもいいんじゃないすかね?」

「バカモノ、ほかの家の奴らに取られるであろう! 減ってしまうぞ、我々の取り分が!」

「減るも何も、うちらはハラが減るんすけど」

「夜に二倍食わせてやる! いいから働くのだ!」

「うちらは牛じゃないんすが、へぇへぇ、やりゃいいんでしょ」

「あのさ……ほかの部隊は休養させるから誰も取らないよ。先にお昼食べさせなさい、当主命令だ」

「し、しかし……あ、いえ、ナンデモアリマセン」

「怒られてやんの、ざまあみろっす」


 ガムランは昔から金が絡むこと(とあと旨いものを食べること)に関しては妥協しないので、彼に任せておけば戦場に散らばった魔族の遺品を残らず回収してくれるだろう。

 魔族軍が使っていた武器は人間のように種類や質が統一されておらず、大半は粗製の剣や斧、金棒などで、中には丸太を削っただけのこん棒などもある。

 また、防具に関してもそのままでは人間が使えないので、最終的に金属製は屑鉄として売り払い、木製は薪などに加工することになるだろう。

 あとは、魔族によっては体の一部が素材になることもあり、特に鬼族は頭の角の骨が様々なものに加工できるので、この後ガムランたちによってせっせと切り取られることとなる。

 魔族軍が奪っていた戦利品はモントレアル領に返さなければいけないので、少しでも戦闘での利益を得るためにアルトイリス軍は必死に死体漁りに励むのだった。


キャラクターノート:No.016


【名前】ヘリクソン

【性別】男性

【年齢】44

【肩書】モントレアル侯爵家騎士団部隊長

【クラス】アーマーナイト

【好きなもの】立派な髭

【苦手なもの】泣くこと

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