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第313話 新参者の憂鬱

 プラージュ城を迂回し、敵に背後を向けたまま西に進み続けるアルトイリス軍――――この日はフォントラル侯爵領内のとある町に陣を張り、そこで一夜を明かすことにしていた。

 戦闘がない日々は続くが、ここは敵地のど真ん中であることを兵士たちもよくわかっており、いつ敵が背後から攻撃してきてもおかしくない緊張感の中、彼らは黙々と食事を摂っていた。

 ただ、そのような中で兵士たちを元気づける一人の天使がいた。


「大丈夫だよみんなっ! ご主人様は強いんだから、きっと戦いに勝てるよ! だから、今日もいっぱい食べて、元気いっぱいになってね!」


 メイド三姉妹の末っ子メルは、(主に女性たちからなる)調理担当の労働者たちと共に、毎日のように大量の食糧を調理し、兵士たちに配給していた。

 そのあどけない笑顔と、そこらの食堂を軽く上回る非常においしい料理は兵士たちに大好評で、不安な行軍による士気の低下防止に一役買っている。


「ああ……しみじみウメェ、今日の疲れが吹き飛ぶようだ」

「この味、一度味味わったら、絶対死んでやるものかって思えてくるの、不思議よね」

「きっと戦いに勝った後に食ったら、もっと美味いんだろうな……ははっ、いまから戦いが楽しみだぜ」


 兵士たちは皆、メルの作る食事によって心身ともに癒えていき、明日への活力を蓄えていく。

 だが、彼らの命を預かる将軍たちは、そのような暢気な気持ちではいられなかった。


「サミュエル殿……ジェニファー殿……」

「フルトヴェングラー将軍か、いかがしたか」


 帝都からの亡命者であるフルトヴェングラーは、40代前半の壮年の男性騎士であり、武骨な板金鎧を身にまとい、若干白髪が混じった茶色い口髭が口の周りを覆っている。

 かつては前皇帝オルセリオ三世の元で、中堅程度に位置する将軍であったが、先の帝都内乱では正月を家族と過ごしていたため、幸か不幸か宮廷に駆けつけるのが遅れ、マルセラン側に対してもはや勝ち目がないと判断して、一家で命からがら逃げ延びたという。

 そんなフルトヴェングラーは、良くも悪くも堅実な戦いをすると評価されており、それゆえ今回のリクレールが行っている作戦に対し、まだかなりの不安を抱えているようだった。


「もし、貴公らは、主が間違っていると判断したら、従うのが忠義と考えておられるか? それとも、例え命を賭してでも、諫言するか?」

「忠義ねぇ……私たちだって、リクレール様の考えに思うところがあれば、当然指摘するわよ。でも、将軍はリクレール様に意見したら手打ちされると思っているんじゃないかしら」


 サミュエルと共に、新たにアルトイリス軍を率いる幹部となった女伯爵ジェニファーは、歯切れが悪いフルトヴェングラーの心を見透かすようにそう言った。

 ジェニファーはアルトイリスの貴族の序列で言えば6番目くらいだったが、ラクロをはじめとした有力貴族の半数がリクレールに粛清されたことで、リクレール側についた彼女は、その功績を認められ、幹部としての地位を与えられた。

 昔は気の強い女将軍だったと言われるジェニファーだが、加齢のせいか今はすっかり穏やかになりつつある。


「フルトヴェングラー殿の気持ちはよくわかる。正直なところ、我々も心の底から今回の作戦が万事うまく運ぶとは思っていない。なればこそ、我らがリクレール様を支え、あの方の考えていることが正しいことを証明して見せるのだ。それこそが、私なりの忠義だと思っているが、これでもまだ疑問はあるか?」

「そうね、私たち年寄りには、若い子たちの勢いは危うく思えるのだけど、だからと言ってここでやめれば、私たちは戦わずして負けを認めることになる。あなたはそれでいいの?」

「それに私は思うのだ、此度の戦いで一番思い悩んでいるのはおそらくリクレール様であるはずだ」

「リクレール殿が?」

「リクレール様は武はからっきしであったが、幼いころから非常に頭の良い方でな……魔族の残党軍を壊滅させ、ロディ渓谷で帝国軍本隊を返り討ちにし、リヴォリ城ではブレヴァン侯爵を翻弄している。我らのような年寄りには考え付かないような奇策の数々は、どれも恐ろしいほどに効果的だ。ゆえに、たとえ今回の作戦が机上の空論のようなものであったとしても、我らはリクレール様を信じてみたいと思えるのだ」


 そう言って自信満々に語るサミュエルと、強く頷くジェニファーを見て、主を失ったフルトヴェングラー将軍はちょっぴり羨ましく思うのだった。

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