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第308話 攻撃を怠ったツケでございます

「こ、侯爵様! 一大事でございます!」

「どうしたんだそんなに慌てて、まずは落ち着いて報告せよ」


 渋々出陣の準備を整えていたフォントラル侯爵ビゼーの元に、転がり込むかのような勢いで大慌ての伝令がやってきた。

 彼の服は砂ぼこりや泥にまみれており、目も充血しきっているところを見ると、道中相当急いできたのだろう。


「そ、それが……アルトイリス侯爵軍が、我が領に侵略してまいりました! 数は不明ですが、かなりの大軍です!」

「アルトイリス軍が攻めて来ただと!? そ……それは本当なのだろうな!?」

「間違いありません……! あの旗印は、アルトイリス軍のものです! 国境の村や町はすでに防衛もままならず通過され、領内を通る街道をひたすら西進しつつあります! 道中にいくつか砦はございますが、このままでは多勢に無勢です!」

「なんということだ…………アルトイリス侯爵はトチ狂ったのか!? 宣戦布告の意思も告げず、我が領内に進攻するなど、奴らに恥という概念はないのか!?」


 まさか向こうから攻めてくるとは思わなかったビゼーは気が動転するとともに、自分の領土に何の断りもなく侵略してくるアルトイリス軍に強い憤りを覚えた。

 彼は怒りで体を震わせながら、すぐに配下の貴族や将軍たちに招集をかけた。


「諸君、一大事だ! アルトイリス侯爵軍が我が領地に攻めてきた!」

「な、なんですと!?」

「それは真ですかな、ビゼー様!?」


 招集された貴族や将軍たちは、皆一様に動揺を隠せなかった。

 しかしそれもそのはずで、彼らもビゼーと同じく攻めるのはこちらの立場であり、まさか向こうから攻めてくるとは夢にも思っていなかったのだ。

 そして、侯爵夫人のドロッセルもまた、獲物と見下していたアルトイリス軍が攻撃してきたことを聞いて、怒りの形相でビゼーに詰め寄ってきた。


「あなた! だから言ったでしょう! あなたがグズグズしているから、奴らは私たちの領土を荒らしに来たのよ! このままじゃ、私たちの美しい国が、薄汚い傭兵たちに蹂躙されてしまうわ!」

「くっ……確かにそなたの言う通りだった。今はもはや一刻の猶予もない、出陣の支度を急がせ、奴らの進軍を止めるのだ!」

「お待ちくださいビゼー様」


 ドロッセルに言われるまま出陣の準備を急がせていたビゼーだったが、今度はバラドワイズから待ったの声が掛かった。


「バラドワイズ殿……今度は何だ」

「敵の戦力は不明ですが、こちらに攻めて来たということは、アルトイリス侯爵軍はそれなりに戦力に自信があるのでしょう。それに、どうやら向こうにはコンクレイユ侯爵軍の騎士団もいるようです。彼らを相手に野戦を行うとなれば、甚大な被害を被ることでしょう」

「し、しかし! ならば奴らの侵略を黙ってみているというのか!?」

「おそらく彼らの目的は、我らが主の根拠地を直接攻撃するつもりなのでしょう。しかし、余程の愚か者でなければ、まずこのプラージュ城を足掛かりに攻略し、進路を確保した上で進軍するはずです。それゆえ、ビゼー様にはこの地でアルトイリス侯爵軍を足止めしていただきたく存じます」

「この城で足止めか……できないことはないが、しかし……その間に我が領が荒らされてしまうのは……」

「それはビゼー様がアルトイリス侯爵領の攻撃を怠ったツケでございます」

「ぐっ……」

「とにかく、その間に私はブレヴァン侯爵様に急ぎ知らせに向かい、援軍を要請いたします。どうかその間、籠城して耐えてください。決してアルトイリス侯爵軍を、我が領に通さぬよう、強く申し付けます。わかりましたか?」

「ああ、わかった……かくなる上は仕方あるまい」

「ちょっとあなた! この女の言うことばかり聞いていいわけ!? 私たちの町や村が荒らされるって何度も言ってるのよ!」

「ああもう、お前は黙っていろ。ブレヴァン侯爵には我らは逆らえないのだからな」


 こうして、ビゼーはヒステリックに叫ぶドロッセルを無理やり抑え、出撃準備から籠城の用意に切り替えるのだった。

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