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第307話 勇ましい侯爵夫人

「あなたーっ! いるんでしょ、入るわよ!」

「その声……ドロッセルか」


 扉の外から聞こえてきた甲高い女性の声に、ビゼーはやれやれと力なく首を振ると、ぶっきらぼうに「入っていいぞ」と返す。

 すると、扉がやや乱暴に開き、ライムグリーンの髪の毛が麗しい若き女性ドロッセルが現れた。


 彼女はビゼーよりも20歳近く年下だが侯爵夫人で、ビゼーの3番目の妻だった。

 帝都の大貴族の娘であり、才色兼備と名高い女性なのだが――――今ビゼーを困らせているのが、ほかならぬドロッセルだった。


「さっきバラドワイズさんと会ったわ、あなたはまたアルトイリス侯爵領に攻めるのを断ったそうじゃない! どうしていつまでたっても決断しないでグズグズしているのよ、だから私は言ったのよ、とっとと攻めるべきだって!」

「はぁ……お前にも何度も言っているだろう、今アルトイリス領を攻撃しても、大した利益にならないどころか、魔族との最前線の土地を押し付けられるだけだ。それに、相手はこちらとほぼ同程度の兵力を擁するうえに、コンクレイユ侯爵軍の後ろ盾もある……迂闊に攻めても無駄な損害が出るだけだ」

「わかってないのはあなたの方よ! 貴族に一番必要なのは土地なの! アルトイリス領が碌な作物が取れないのは確かよ、けどアンクールは豊かな街だし、いまならアザンクール山脈からの交易路も独占できるわ。それに、魔族が攻めてきても前の皇帝の頃のようにいちいち野戦で迎え撃たなくても、砦を建設して守れば十分じゃない!」


 ドロッセルは優秀な女性ではあるが、それ以上にビゼーをはるかに上回る野心と領土欲の持ち主であった。

 特に前皇帝が定めたオルセリオ協約に反感を持っており、アルトイリス家に十分な支援を送らなかったり、彼女の独断で周囲の帝国貴族の領地を非合法に奪うなどしていたため、ビゼーも何度か彼女のやったことのしりぬぐいをする羽目になった。

 そして今回の内乱では、次期皇帝のお墨付きで領土を分捕れる好機ということで、積極的にビゼーを焚きつけているのである。


「だが……アルトイリス家を継いだ次期当主は、僅かな兵力で魔族の大軍を撃退したとのうわさを聞くし、貴族の反乱を僅か1日で鎮圧したらしい。あのリクレールがそのような人物だとは知らなかったが、危険な相手であることは変わりない。攻撃するとしても、アルトイリス軍がユルトラガルド家の援軍に向かい、領地の兵が少なくなってからの方がよいと思うのだが」

「はぁ、あなたも随分と臆病になったものね。マリアの弟のリクレールと言えば、まだ14歳の子供で、しかも先々代のアルトイリス侯爵からも不出来な息子と言われていたことはよく知っているわ。そんな弱い子供が魔族を撃退しただの、反乱を鎮圧しただの、出来るわけがないわ」

「しかし、現に新しいアルトイリス侯爵の粛清から逃れてきたという貴族がいるのだが……」

「それは大方、コンクレイユ侯爵の差し金でしょう。それに、集めた兵というのも、聴いた話によれば乞食も同然の貧民の群れだって言うじゃない。そんなの相手に怖がっていたら、フォントラル侯爵の名が泣くわよ! とにかく、次期皇帝陛下から失望される前に行動を起こすのよ! あなたがやらなくても、最悪私が勝手にやるから!」

(くっ……妻の癇癪を抑えるのも、そろそろ限界か。仕方がない、今の手持ちの兵力だけでは不安だが、アルトイリス侯爵領の一部を占拠し、そこで防御して敵の兵力を削るか……)


 妻からもそうだが、ブレヴァン侯爵家の意向を受けた臣下たちも、次々にアルトイリス侯爵家を攻めるべきという声が上がっているため、ビゼーもこれ以上の様子見は難しいと判断した。

 そして次の日には、軍の準備を整えるよう命じたのだが…………そのさらに数日後、事態は急展開を迎えた。

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