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第305話 小さなお姫様のお見送り

 こうして本当の作戦を全軍に通達したリクレールは、改めてアルトイリス軍全軍に出陣を命じた。


「僕たちアルトイリス侯爵軍は、不当に皇帝の地位を簒奪した僭称者マルセランと、帝国を私物化する極悪人ブレヴァン侯爵を討つため出撃する。ルトイリス侯爵家の誇りと名誉に賭けて、必ずや勝利をこの手に掴もう!」

『おおーっ!!』


 リクレールの号令で兵士たちが鬨の声を上げると、総勢約4000人の軍隊は一斉に動き出し、郊外の陣地から一度アンクールの街の大通りを行進してから西に向けて進軍を始めた。

 先頭をヴィクトワーレ率いる精強なコンクレイユ騎士団が進み、その後ろをアルトイリス軍の兵士たちが隊列を組んで歩いていく。

 立派な旗を無数になびかせ、軽装とはいえきちんとした武器と防具を身にまとい、一糸乱れぬ歩みで進む兵士たちを見て、アンクールの住民たちは誰もが圧倒され、目を奪われた。


「すごい……これが新しいアルトイリス侯爵様の軍隊!!」

「東帝国から連れてきた連中を見た時は、正直物乞いか野盗の集団だと思ったほどだが……本当に同じ奴らなのか!?」

「これだけ強そうな兵がいれば、僭称者の打倒もあっという間だろう。リクレール様は一体どんな魔術を使えば、こんな強い軍隊を作ることができたんだ?」

「あのお方は、きっとマリア様の生まれ変わりに違いない! 神々しいまでに美しい容姿に、魔族を撃退した魔剣の力……このアンクールの街も、リクレール様がいれば安泰だ!」

「リクレール様万歳! アルトイリス家万歳っ!」


 行軍する兵士たちの真ん中で、立派な黒い馬に跨り、背中に立派な大剣を背負うリクレールは、もはや頼りない領主さまとは思われていなかった。

 魔族の残党を短期間で撃退し、領内を荒らしまわる山賊や盗賊を片っ端から討伐し、マリアの時代から滞りがちだった内政の諸問題を次々に解決していく手腕を見て、なお彼のことを何もできない幼君だと侮る者はほとんどいないだろう。


 人々の期待を一身に背負って進みゆくリクレールだったが、道の途中でリクレールに会えるのを待っていた者たちがいた。


「リクレール様、私たちもお見送りに参りました。アンクールの街を代表して、侯爵様のご武運をお祈り申し上げますわ」

「リクレールさん、とうとう出発するんですね……こんな時で申し訳ないですが、リエナ様が当分会えなくなると寂しがると思うので、少しの間だけ撫でてあげてください」

「メルティナ、それにべルアーブルさん! わざわざ見送りありがとう! リエナ様まで連れてきてくれたんですね……」


 出迎えたのは、アンクールの町長メルティナと、主君から託された跡取りの姫リエナを守るべルアーブルだった。

 母親であるシャルロッテがなくなった今、可能であれば、生きていることが分かった父親レオニスの元に早く戻してあげるべきだが、まだこちらに来られる余裕がないようなので、内戦が終結するまでは引き続きメルティナやべルアーブルが面倒を見ることになった。

 不思議なことに、生まれたばかりのリエナは、時々アンクールの街で執務をするリクレールに妙になついており、夜泣きがどうしても収まらない時はわざわざリクレールが抱っこしてあげることでようやく寝静まるほどだ。


「リエナ様……僕は君のために絶対に勝ってくるから、いい子でお留守番しててね」

「あー」


 リクレールに抱っこされたされたリエナは、余程嬉しかったのか、ひとしきりキャッキャと笑顔で騒いだ後、すぐにカクンと寝落ちしてしまった。

 彼の睡眠導入ボディは、赤ちゃんにも効果抜群のようだ。


「ふふっ、寝顔も可愛いね。なんだか僕も赤ちゃん欲しくなっちゃった」

「あの……侯爵様がそれを言われるとあまりシャレにならないのではないかと」

「わわわ、確かにそうだよね! そ、それじゃあメルティナ、べルアーブルさん、リエナ様のことは任せたよっ!」

「ふふふっ、リクレール様はやはり優しい人なのはかわりないですね」


 そんな和やかな場面こそあったが、アンクールの街を出たアルトイリス軍は徐々に緊張感を増しながら、フォントラル侯爵領の方に進んでいった。

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