第304話 3倍の報酬
アリシアとデルセルトとの軽いやり取りを終えた後、リクレールは黒色の馬ネージュに跨りながら、改めて集まった全軍を見渡した。
事前に決まっている編成としては、アルトイリス軍4000人のうち、リクレールとサミュエルが、それぞれ1000人ずつ率いて中心となり、残り2000人をアリシアをはじめとした5人の将軍に400名ずつ割り振った。
指揮官に抜擢されたのはアリシア、デルセルトの両輪だけでなく、アルトイリス侯爵家の貴族の中で、数少ない先々代からの生き残りだった女伯爵ジェニファーや、帝都の内乱を逃れてここまでたどり着いた壮年男性の将軍フルトヴェングラー、それにアリシアと同じく傭兵隊長から抜擢した女傑ナナリーなどがおり、それぞれが神妙な面持ちで出陣命令を待っている。
コンクレイユ騎士団も、1000人のうちヴィクトワーレが600人を直属として率いており、残りの400人のうち200人ずつを、名物赤緑コンビのマティルダとベルサが率いることになった。
「さてみんな、よく聞いてほしい。君たちには以前から、リヴォリ城周囲で戦っているシャルの援軍に向かうと言っていたけど……急遽事情が変わった。これから僕たちはフォントラル侯爵領を横切って、一気にブレヴァン侯爵領を攻撃する!」
『なっ!?』
リクレールが改めて本当の作戦を暴露すると、将軍や兵士たちの間に動揺が広がる。
敵対勢力の領土を突っ切って、敵の首都を直撃するなど、まさしくハイリスクハイリターンな作戦であり、途中で負けたら無事に帰ってこれる保証はない。
「みんなの心配ももっともだと思う。けど、相手はブレヴァン侯爵率いる5万人の兵……正面から戦ってもなかなか勝てないだろう。だから、危険を冒してでも、成功すれば確実に敵を一網打尽にするために、この作戦を実行する。もちろん異論は認めない」
「敵の領地を横断!? そ、そんなことして大丈夫なの!?」
「オイオイオイオイ……ウェアテル城を奇襲した時もそうだが、うちの侯爵様は思い切りよさすぎだろ。けどまあ、俺はむしろ賛成だ。あのいけすかねぇブレヴァン侯爵の野郎のケツをガン掘りしてやろうぜ!」
「嫌な例えだけど、うん、成功したらきっとすごいことになるよね! 私も賛成です!」
「あの厳しい訓練を越えてきた皆なら、きっと勝てると僕は信じてる。厳しい戦いになるとは思うけど、もし勝てればみんなに渡した前金の3倍の報酬を払うし、当然戦功に応じて臨時報酬も出す。だから、みんな頑張ってたくさん稼いでいこう!」
『おおっ!!』
危険な作戦と聞いて不安な表情を浮かべていた兵士たちも、破格の報酬を出してくれると聞いてたちまち目の色を変えた。
前金の段階でも、平民には夢のような額の金が支給されたというのに、それの3倍となれば、下手すれば生涯に稼ぐ金を一度に受け取れるということになる。
彼らはなんとしてでも生き残り、あわよくば追加報酬を得ようと意気込んだことで、アルトイリス軍は士気が大幅に上昇するのだった。
(兵士たちが喜んでくれるのは嬉しいけど、西帝国で稼いだお金の大半が兵士たちのお給料に消えちゃったなぁ。軍隊は本当にお金がかかるよ……)
『ですが主様、彼らに支払った報酬の半分以上はこの国の商人に還元され、いずれは主様の手元に戻ってきますわ。お金は使わなければ意味がありませんわ』
(そうだね、兵士たちには報酬をたくさん上げた分、たくさん使わせてあげなくちゃ)
喜ぶ兵士たちの前で、リクレールが心の中で悪徳商人のようなことを考えていたことは、幸い誰にも知られることはなかった。




