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第303話 つかの間の休息

 リクレールたちが、昼前にアンクールの街郊外にあるアルトイリス軍の陣地を訪れると、そこにはすでに約4000人のアルトイリス兵と約1000人のコンクレイユ騎士団がずらりと整列していた。

 彼らを雇ったばかりの頃は、顔に締まりがなく、男はひげが伸び放題、女は頭ぼさぼさと言った有様で、さながら乞食か盗賊の集団にしか見えなかったが…………約3ヶ月近くに及ぶ厳しい訓練を経たことで、今や誰もが精悍な顔つきになり、安価ながらも十分な装備が整ったことで見た目も正規軍らしくなった。


「侯爵様っ! アルトイリス軍全員揃いました! 脱走した兵も、二日酔いでダウンしている兵もいません! 全員いつでも出撃できますよ!」


 そう言って元気よく報告するのは、傭兵たちの指揮官に抜擢された、ふわりとした桃色の髪を後ろの方で白いリボンで纏めたポニーテールが特徴的な平民出身の少女、アリシアだった。

 アリシアはウェアテル城奇襲以降も、その高い潜在能力と、不思議と周囲を引き付ける魅力があることがエスペランサの目に留まり、訓練を通じてより大勢の兵の率いる指揮官の役目を担わされたのだった。

 当初は困惑していたアリシアも、今ではすっかり開きなおって、すでに軍を率いる将としての風格が整いつつある。


「よう侯爵閣下、こっちも準備万端だ。兵たちもたんまり前金貰って、景気よくぱっと使わせてもらったせいで、訓練の疲れも吹き飛んだみたいだぜ」

「アリシア、デルセルト、二人とも兵をまとめてくれてありがとう。君たち自身もゆっくり休めたみたいだね。これからしばらく、僕も含めて過酷な行軍をすることになるだろうから、今のうちに体力は回復しておかないとね。兵士たちの顔を見ても、ほとんど疲れが残っていないことがわかるよ」


 もう一人の臨時指揮官、黒づくめの元盗賊騎士デルセルトも、兵士たちが受け取った前金で存分に休暇を満喫できたことで、元気を取り戻したことを報告した。


「にしても……あれだけの大金が前金とは、随分と気前のいい領主さまもいるもんだな。兵の数もそれなりにいるし、出費も馬鹿にならないだろう」

「わ、私あんなにたくさんのお金貰ったの、生まれて初めてなんですけどっ! おかげでいい武器や防具を新調できました、ありがとうございます!」

「ある意味どん欲だな蹴飛ばし屋、武器や防具を新調して、より戦場で稼ぐつもりだな。俺は酒代や飯代、それに女代でほとんど消えちまったがな!」

「えー、武器とか新しくしないの? もったなくない?」

「まあまあ、何に使うかは人それぞれだから。軍紀さえ守れれば、特に咎めはしないよ。せっかく厳しい訓練を潜り抜けたんだから、休みの日くらいなるべく好きにさせてあげたい」

「……侯爵様って、ずっと怖い人だと思ってましたけど、優しいんですね」

「優しい、か。そう思われるなら、僕はまだまだかもね……」

「えっ」

「バーカ、優しいと言われて嬉しい男がいるかってんだ」


(そういう意味で言ったわけじゃないけど……まあいいか)

『そうですわ、主様メーテル。主君たるもの、決して臣下に舐められてはいけません、恐れられる存在でなければなりませんわ』


 アリシアに優しいと言われるのは、正直悪い気がしないどころか嬉しくさえあったが、これから暴君を目指す存在としては、あまりいい評価とは言えないかもしれない。

 威厳はすぐに身につくものではないが、舐められない君主になるというのは改めて大変だなと、リクレールは思ったのだった。

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