第302話 弱い仲間の使い方
「ねえリクレール君、もしかして私からモントレアル侯爵に、フォントラル侯爵家の国境に兵を動かしてほしいって頼んだのも、このことを見越してだったのかしら。だとしたら、本当に用意周到なのね」
「エレノアさんが説得してくれて本当に助かったよ。あの二国は以前から領土紛争を抱えているから、ポーズだけでも軍を駐留させれば、フォントラル侯爵軍は全力を出すことができない。何しろあの周囲は良質な鉄鉱石の産出地帯だから、失うわけにはいかないだろう」
「私はてっきり、シャルンホルスト君の援軍に心置きなく向えるようにと思っていたのだけど、本当の狙いは戦力の分散にあったなんて思わなかったわ。ふふふ、私もなんだか勉強になったわ♪」
シャルンホルストたちがリヴォリ城の救援に向かった後、リクレールはエレノアを南の有力諸侯であるモントレアル侯爵家に派遣し、フォントラル侯爵家の国境にある領地に兵を駐屯させるよう依頼した。
モントレアル侯マクシマンは、魔族の残党を撃退してもらった見返りに、アルトイリス侯爵家と相互防衛協定を結んだのだが…………昨年の魔族の大軍団の襲撃から、まだ領地が立ち直っていない状態だったので、一時は軍の派遣を渋っていた。
しかしエレノアはマクシマンにこう告げていた。
「侯爵閣下が復興に苦慮していることは存じ上げております。ですが、何も行動を起こさなければ、侯爵閣下の信義が地に落ちてしまいかねません。ですから、今回は形だけの派兵にとどめていただければ十分です。国境沿いに兵を並べるだけで、フォントラル侯爵家は我が領地を侵す危険性がぐっと減りますゆえ、結果的に内戦の終結に貢献できますわ。それと、もしこの度の内戦で我らに味方していただければ、係争地の領土は、すべてモントレアル侯爵様にお譲りいたします」
「ううむ……そこまでの好条件を提示されるのであれば、断れぬな」
こうして、モントレアル侯爵軍は少なくなった兵力を何とか捻出し、フォントラル侯爵家との国境沿いにある砦に軍を集結させた。
これにはフォントラル侯爵も看過できず、アルトイリス侯爵領を攻撃するのに使うはずだった兵力の半数を、南に回さざるを得なくなった。
リクレールの案があったとはいえ、エレノアは口先の交渉だけで敵の戦力を半減させたのである。
「そんなわけで、これで用意はすべて整ったことが確認できた。訓練が終わった元傭兵の軍が約4000、そしてトワ姉が率いるコンクレイユ侯爵軍が1000人、合計で5000人の兵力が集まったし、戦力としても申し分ない。後はみんなの戦場での働き次第で、マルセランとトライゾンの野望は打ち砕かれる。頑張ろう、亡くなった姉さんが望んだ平穏を取り戻すためにも」
「ええ、もちろんよリク。私たちコンクレイユ軍も、この時のために備えて騎兵隊を訓練させてきたわ。それに、帝国内でマリセランに与しなかったせいで追放された騎士や将軍たちも、続々この地に集まってる。私たちの手で、帝国を私物化しようとしている悪人たちを懲らしめてやりましょう!」
帝国北方でレオニスと合流を果たしたコンクレイユ軍本隊とは別に、今回の戦いではヴィクトワーレ率いる精鋭騎士団1000人も加わっている。
それだけでなく、彼女の言うように帝都の内乱でマルセラン派に逆らって追放された騎士や貴族たちも、捲土重来を期してアルトイリス侯爵領に集まっており、彼らにも戦力の一翼を担わせることができた。
すでに何名か、盗賊騎士デルセルトのような有能そうな将軍もいたので、彼らにも訓練を積ませ、一部の兵を率いてもらうことになったのだった。
「それじゃあ僕たちは、明日の朝にはアンクールの街に移動して、ブレヴァン侯爵領の直接攻撃に向かう。アンナ、エレノアさん、それにレイ。僕がいない間の留守を任せた」
「わかったわ、私がいれば守備は問題ないから、安心して」
「リクレール君のおかげで、領内の問題は大体片付いたから、後はおばさんにまかせて頂戴ね」
「ご主人様……私もご一緒したかったですが、メイドとして家を守る責務があります。お戻りになられたとき、ゆっくりお休みいただけるよう、精一杯務めを果たします」
「うん、みんな本当に心強いね。みんながいてくれて、本当によかった……僕も無事に戻ってくることを誓うよ」
こうして、リクレールたちアルトイリス侯爵家は、最終目標に向けて改めて団結を誓った。
そしてその翌朝には、リクレールをはじめとする将たちは、兵たちと合流すべくアンクールの街に向かって行ったのであった。




