第301話 奇策の正体
「ではリクレール様、ようやくシャルンホルスト様の援軍に向われますかな!」
「ごめんねガムラン、それにサミュエルやアンナも。シャルの軍に合流するっているのは嘘だ」
「なっ、なんですと!?」
「嘘……と申しますと?」
突然今までの計画が嘘だと言われ、ガムランはもとより一番の忠臣であるサミュエルも怪訝な顔をする。
「僕たちはリヴォリ城への援軍にはいかずに、ブレヴァン侯爵領を直接攻撃する。そうすれば、ブレヴァン侯爵トライゾンは一番大事な本国を守るために、慌てて引き返してくるだろうから、そこを待ち伏せして撃破する。こうすることで、敵がいかに大軍をもってしても、打ち破ることは十分に可能なはずだ」
「……驚いたわ。まさか、リクレール様がそのような大胆な策を考えていたなんて」
戦いに精通しているアンナでも、この作戦は想定外だったようで、珍しく驚きの表情を見せていた。
「みんなには直前まで黙っていて申し訳ないけど、この作戦は少しでもばれたら成功しないから、ギリギリまで秘密にするしかなかった。みんなのことを信じていないわけじゃないから、安心してほしい」
「なるほど……某もまさかそのようなお考えがあるとは、露ほども思っておりませんでした。しかし、いくつか疑問がございます」
「もちろん、疑問があればどんどん言ってほしい」
どうやらサミュエルにはまだ一部腑に落ちない点があるようで、リクレールに質問してきた。
ともすればリクレールのイエスマンのように思われるサミュエルも、不備があればきちんと指摘してくるのである。
「まず、リクレール様はどの程度の期間でブレヴァン侯爵領を攻略する見込みでございますか。おそらく、余程早く攻略しなければ、我々が侯爵領を攻め落とす前に、トライゾン殿が引き返してくる恐れがございます」
「僕としては、出来れば半月以内にブレヴァン侯爵領の首都セダン城を陥落させたい。情報収集させていたユナからの報告でも、今のセダン城は最低限の守備兵しか残っていないと聞いているから、そこまでは時間がかからないはずだし、例え陥落できなくても、最終的な目標は引き返してくるはずのブレヴァン侯爵軍本隊だから、十分実現は可能だと思う」
「しかし、そうなりますと最大の障害は、我が領とブレヴァン侯爵領の間にあるフォントラル侯爵家でございますな。彼らもまた僭称者マルセラン側についたようで、現在でも我が領を虎視眈々と狙っております。ブレヴァン侯爵の差し金により、戦力も増強されているようですが……どのように攻略されるおつもりで?」
「普通なら通り道になるフォントラル侯爵領の都市も抑えたいところだけれど、今はそんな時間はない。だから、彼らを野戦に引きずり出して、一度の決戦で片をつける。敵が反撃してこなくなればそれで十分だからね」
「ふむ、確かに一時的に通るだけであれば、敵主力軍を撃破すれば済みますな。そこまでお考えであれば、某としても今回の作戦に異存はございません」
リクレールとサミュエルの言う「フォントラル侯爵家」というのは、アルトイリス侯爵領のすぐ西側に存在する、西帝国の有力諸侯の一つであり、今回の内戦でもブレヴァン侯爵側についた敵対的な貴族である。
元々フォントラル侯爵家とアルトイリス侯爵家は同じ祖先をもち、両社は親戚同士のような関係だったことから、以前までは良好な仲であったが…………アルトイリス家がマリアが当主になったころから、ブレヴァン侯爵家に裏で諭されたのか、次第に関係が悪化し始めた。
何しろ、フォントラル侯爵家もまた「オルセリオ協約」に基づいて、アルトイリス侯爵家に無償で物資を提供する義務を負っていたので、内心では不満を感じていたのかもしれない。
そして彼らは予想通りマルセラン派に与し、隙あらばアルトイリス侯爵領を攻撃しようとしていたのだった。




