第300話 最終確認
マリアの墓参りを終えた後、リクレールは改めてアルトイリス城にいる主要な臣下たちを集め、出陣前の最後の打ち合わせを開催した。
「みんな、ここまで本当にご苦労様。おかげで、予定通りに兵士たちの訓練も終わって、僕が西帝国に行って不在だった間解決できなかった問題も、何とか全て片付けることができた。明日から、いよいよ僕たちの手で西帝国の内乱を終わらせよう!」
「おお……ようやっと、ですな。戦いの準備というのは、これほどまでに大変なものだとは思いませんでしたぞ。ですが、これが終われば、ようやくうまい食事にありつけるというもの!」
「あはは、ガムランにもいろいろ無理させちゃったね」
すっかり疲弊したスマートイケメンになっているガムランを見て、この場に出席した者たちは、彼がいかにリクレールに酷使させられたかを改めて目の当たりにすることになる。
遠征軍の食糧や物資の調達はもとより、前線で戦っているシャルンホルストたちの補給も彼が手配していたのだから、その忙しさは想像を絶するものがあった。
近頃の噂では、ガムランの体形を見るだけで、アルトイリス侯爵家が大規模な計画を進めていることがわかるとすら言われているとか……
「サミュエルやアンナも、この短期間でよくあの傭兵たちをまともな戦力に仕立て上げてくれたね。あれだけいい動きができれば、今回の戦いも安心できる」
「流石に帝国正規兵並とまではいきませんでしたが、少なくとも命令があれば即座に反応できるまでにはなりました。やはり軍にとっては、規律通りに動くのが何より重要ですからな」
「素人に毛が生えた程度の腕っぷしだけが取り柄だった質の低い傭兵たちも、少しはまともな戦力になったかと。初めは幾度となく脱走しようとする者が現れましたが、今では皆リクレール様に完全に服従しています」
「……本当は僕もあそこまではやりたくなかったんだけど、戦いに負けるわけにはいかないし、訓練で死ぬような兵だと実戦じゃ役に立たないからね」
リクレールが西帝国に行った時にかき集めた傭兵約4000人は、一部を除いて非常に質が低いものだったので、ここ数か月の間、彼らはサミュエルやアンナの指導の下、地獄のような訓練の日々を送ることとなった。
普通であれば年単位でじっくり訓練するところを、数か月でまともな戦力にしなければならないのだから、当然そのやり方は非常に厳しいものにならざるを得ず、初めのうちは嫌になって脱走しようとする者が後を絶たなかった。
しかし、アルトイリス城はその構造から脱走が困難である上に、非常に優秀なアンナ直属の兵士たちが、脱走兵を即座に射殺するため、結局一人として逃げ出すことはできなかった。
訓練場には毎朝のように脱走兵の遺体が吊るされており、それを見た傭兵たちは、もはや地獄の訓練を潜り抜ける以外に生き残る手立てはないのだと絶望することになる。
だが、1ヶ月もする頃には、傭兵たちの顔つきも徐々に変わって、反抗的な態度もすっかり鳴りを潜め、指揮官の命令にきちんと従うようになった。
さらにもう1ヶ月もすると、隊列を組む時も一糸乱れぬ動きを見せ、前進も後退も非常にスムーズに行えるようになった。
最近では、実戦訓練と称して、アルトイリス領だけでなくコンクレイユ侯爵領やモントレアル侯爵領まで赴いて、山賊団や盗賊団、流浪の魔族の集団などと戦闘を重ね、着実に経験を積ませている。
そのおかげで、今やアルトイリス領周辺では賊徒や流れの魔族が根絶され、治安の面でもよい影響をもたらすのだった。
現在、訓練を終えた兵士たちはアルトイリス城から、アンクールの街郊外の陣地に移動しており、そこで出陣前の3日間、休息を与えている。
彼らには報酬の前金としてそれなりの額の金を渡しており、今頃は死地に赴く前のつかの間の休息を堪能し、英気を養っていることだろう。




