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第28話 モントレアル領の戦い 7

 3度に渡って魔族軍相手に完勝したアルトイリス軍の士気は天を揺るがさんばかりとなり、激戦の後にも関わらず休憩の必要がなさそうなほど元気いっぱいだった。

 ただそうはいっても一度陣形を組みなおす必要があるため、リクレールは再度兵士たちに小休止を命じ、その間にサミュエルたちと次の戦いの会議に移った。


「リクレール様、残念ながら先ほどの戦いで10名が命を落としました。また、戦線に復帰不能な重傷を負った兵も14名おります」

「…………さすがにあの戦いだと、無傷では済まなかったか」

「あまり落ち込むな、リク。むしろあの大激戦で、この程度の被害で済んだのは奇跡に近い」

「そうだね、彼らはよく頑張ってくれた。戦いがすべて終わったら、彼らを丁重に葬ってあげないと」


 戦いで死者が出るのは当然とはいえ、やはり味方が死ぬというのは心優しいリクレールにはなかなか堪えるものがあった。

 もっとも、この後も……さらには戦いが終わった後も、もっとつらいことをしなければならないと思うと、若干気が重くなった。


「さて、次はいよいよ敵の本隊が相手ね。距離的にはほとんど目と鼻の先だからわかるけど、敵の数は今まで戦ってきたのを合わせたよりもさらに多そうだわ」

「うーん……さすがにここまで戦力差が開いていると、さっきみたいに正面から戦うのは自殺行為に等しいね」

「どうにかしてモントレアル城に籠ってる軍と連携できないか?」

「可能であればそれが一番確実かと存じますが、あのように包囲されては伝令を送ることも難しいでしょうな。こちらが敵を引き付けることができれば、城内の者たちが気付くやも知れませぬが、失敗すればわが軍は正面から押しつぶされてしまいます」

「そうだね……」


 あまり作戦会議に時間をかけていられないが、かといって妙案がすぐに思い浮かぶわけではなかった。

 そんな時、エスペランサがリクレールだけに聞こえる声で話しかけてきた。


主様メーテル、わたくしによい考えがございます』

(よい考え?)

『まず少数の精鋭部隊で城を包囲する魔族軍の一部を適度に攻撃したのち、わざと負けたように見せかけて誘い出だします』

(なるほど……この場所は確かに地形が窪みになっているから、相手が大軍だと渋滞しやすくなる。でも、ただ誘い出しただけだとあまり意味がないけど)

『それでしたら心配ございません。すぐそこにあつらえ向きの撒き餌がございますわ』


 エスペランサの残影がリクレールの視線を誘導すると…………そこには、敵が放棄した略奪品を満載した荷車があった。

 それを見たリクレールは、すぐに自分たちがどうすべきかが頭の中にはっきりと浮かんだ。


「どうしたのリク、何か気になるのかしら?」

「そうだ……あれを囮にしよう」

「あれって……そうか、奴らが分捕った戦利品か!」


 リクレールの言葉を聞いて、頭の回転が速いシャルンホルストもすぐに彼の意図を理解した。

 魔族軍は放棄されている戦利品を見れば、すぐに奪い取ろうとするだろうから、そこを不意打ちして一網打尽にするつもりだ。


「なるほど、よい案かと。しかし、ここまで誘い込むには一度敵陣に攻撃を仕掛け、偽退却を行う必要がありますな」

「その役目は私が引き受ける。私たちなら騎兵だから足も速いし、いざとなったらすぐに撤退出来るわ」

「ありがとうトワ姉。危険な役目ばかりだけど、お願いするよ」


 こうして、敵本隊を撃破するための作戦は決まった。

 アルトイリス軍はまずシャルンホルスト率いる部隊とサミュエル率いる部隊が、それぞれ雑木林と丘の陰を利用して兵を伏せ、リクレールは少数の護衛兵だけを率いて囮となる荷車のすぐそばで待機する。

 そしてヴィクトワーレの騎士団は、城を包囲する敵軍の背後に回り込み、最も手薄となっていた敵陣の一角に攻撃を加えた。


「みんな、手筈通りに行くわよ、突撃!」

『応っ!」


 一方、こちらに向かって突撃してくる騎士団を発見した魔族軍の見張りは、直ちに味方に敵襲を知らせた。


「敵襲だ! ニンゲンの軍がこっちに向ってきたぞ!」

「はぁ!? あいつらいつの間に俺たちの背後に!?」

「は、早くヤンガラ様に知らせろ!」


 城を攻める必要はないと言われて退屈していた魔族軍たちは若干油断しており、やはり大した陣形も敷くことなくバラバラに迎撃してきたのだった。


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