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第27話 モントレアル領の戦い 6

「ニンゲンども、覚悟しろ! お前ら全員叩き潰してやる!」

「殺せっ! 殺せっ! 殺せっ!!」


 魔族軍は目をぎらつかせながら得物を振り回し、アルトイリス軍に真正面から突っ込んできた。

 陣形も何もあったものではない、ただひたすら己の武勇に任せた乱雑な突撃であった。

 あまりの勢いに直属兵たちですら盾を構えながら思わずしり込みしてしまったが、リクレールが兵士たちの先頭に立つと、突っ込んでくる魔族兵たちを片っ端から切り裂き、多少は衝突の威力を弱めたことで兵士たちは何とか踏みとどまった。

 だが、このままではすぐに防御は突破されてしまう。リクレールはかねてより決めていた通り、コンクレイユ騎士団の働きに掛けることにした。


「トワ姉!」

「よし……全軍突撃!」


 リクレールが合図を送ると、ヴィクトワーレの騎兵部隊がバラバラに突っ込んでくる魔族たちの側面から突っ込んだ。


「おい待て! 横から来るぞ!」

「畜生っ、こいつら強えぇ!?」

「あがっ……い、いてぇっ!」


 先ほどまでの戦いでは逃走する敵の追撃に徹していたが、本来彼女体の部隊はかつてマリアが率いていた騎士団に匹敵する精鋭中の精鋭であり、ほかのアルトイリス軍の兵士は比べ物にならない、場違い的な強さを誇る。

 はっきり言って、魔族の残党程度ではヴィクトワーレの騎士団など相手にならず、彼女たちが駆け抜けた後には無数の魔族の屍が、血で赤い直線の道を作った。


『主様、ヴィクトワーレ様に花を持たせるのも結構でございますが、わたくしたちも負けてはいられませんわ』

「うん、わかってる」


 勿論リクレールもただ見ているだけではない。

 襲い掛かってくる魔族軍相手に魔剣エスペランサを振るい、次々と敵を切り裂いていった。


「ニンゲンどもが、調子に乗んじゃねぇ!」


 リクレールの前に、身の丈2メートル近くはある筋骨隆々のオーガ戦士が現れた。

 彼は両刃斧を軽々と振り回しながら、勇猛果敢にリクレールへと突っ込んでいく。


「オラァッ! テメエなんぞ真っ二つにしてやるぜっ!!」

「っ……!」


 リクレールはエスペランサでその一撃を受け止めた。

 多少の衝撃が体に伝わったが、重みは全く感じず、そのまま力づくで押し返すと、敵兵の首に剣先を貫通させた。


「はぁぁっ!!」

「ぐおっ、うぐうっ……!?」


 敵兵は斧を取り落として膝をつくと、そのまま地面に突っ伏した。

 おそらく彼はオベルほどではないがリーダー格の一人だったのだろう。巨体が大地に倒れ伏すと、周囲の魔族軍に動揺が広がった。


「リクレール様が目にものみせたわ! あたしたちも続けーっ!」

「俺らだってやりゃ出来るんだ、もうお前らなんて怖くないぞ!」


 雑兵の群れだったアルトイリス兵たちも、3度目の戦いで戦場の空気に慣れてきたのか、自ら積極的に武器を振るって魔族軍に立ち向かった。

 流石に正面同士の戦いとなると怪我人も次々に出るし、中には不幸にも命を落とす兵もいたが、もはや彼らはただ武器を持っているだけの人間ではなく、それなりの戦力へと変貌を遂げはじめたのだ。


「くそっ、俺たちが押されているだと!? 俺たちより少ないニンゲンども相手にか!? ムカつくぜ……こんな奴らに負けたらそれこそ笑いものじゃねぇか!」


 対するオベルは自分たちの軍が押され始めているのを見て、怒りを爆発させた。


「このままじゃ終わらねぇ、こうなったら俺が直々に相手になってやる!」


 オベルは身の丈ほどもある大剣を担ぐと、混乱する部下たちを押しのけながら前へ前へと突き進む。

 だが、そこに側面から再びヴィクトワーレの騎兵隊が襲い掛かる。


「そこにいるのは敵将と見た! コンクレイユ侯爵騎士団長ヴィクトワーレが相手するわ!」

「今時名乗るたぁお高く留まったもんだな! 俺様はオベル、勇敢なるオーガ族の戦士だ! まずはテメエから血祭りにあげてやらぁっ!」


 ヴィクトワーレの長柄槍とオベルの大剣が激突し、火花を散らす。

 両者は十数合打ち合ったが、ヴィクトワーレの攻撃のあまりの鋭さに、オベルは徐々に押されていった。


「ぐっ、ウソだろ……このオレ様が、押されて……」

「もらった!」

「ゲハァッ!?」


 そして、一瞬出来た隙をヴィクトワーレは見逃さず、彼女の槍が鎧ごとオベルの胸を貫き、地面に仰向けに倒れたところに喉、心臓といった致命傷になる部位を容赦なく突き刺し、とどめを刺した。


「敵将は私が討ち取ったわ! 残るは下っ端だけよ!」

「おおっ、流石はトワ姉! かっこいいな……僕も負けていられない!」


 こうして、リーダーのオベルが討ち取られたことで、魔族軍の動揺はさらに深刻なものとなった。


「ば、バカな!? オベルの兄貴がああもあっさり!?」

「まずいぞ、このままじゃ俺らもやられちまう!」

「ぐっ、せめてオベル様の仇討ちを……グワァッ」


 こうなると、いくら勇猛果敢な魔族と言えどもまともに戦うことはできない。

 魔族軍にはもはや当初の勢いはなくなり、アルトイリス軍はここぞとばかりに逃げ惑う魔族軍を散々に打ち破った。


「おい、略奪した戦利品がニンゲンに奪われるぞ! 誰か運んでくれ!」

「うるせぇっ、今はそんなこと言ってる場合じゃねぇぞ! ヤンガラ様のところまで逃げるんだ!」


 せっかく手に入れた大量の戦利品も手放さざるを得ず、彼らは這う這うの体で城を包囲する本隊の元に逃げていったのだった。

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