表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/176

第26話 モントレアル領の戦い 5

「サミュエル、わが軍の被害は?」

「やはり多少の怪我人は出ましたが、死者は出ておりません」

「よかった……死者がいないことはいいことだ。でも、今までは一方的な奇襲だったからうまく誰も死なせずに来たけど、ここから先も同じようにいくとは限らない。気を引き締めていこう」

「左様でございますな」


 その後リクレールはいったん小休止を命じつつ、再度斥候を派遣して敵の動きを確認させた。

 村では兵士たちが井戸水を分けてもらいのどを潤す中、誰にも気づかれないようこっそり民家の裏手に回ると……


「うっ、うげっ……」


 柵にもたれかかり、草むらに胃液を吐瀉した。

 エスペランサの力で無理やり抑えていたが、生まれて初めて生き物を殺す感覚を短時間で何度も覚えさせられた精神は大きなダメージを受けており、一度限界に達してしまったようだった。


「はっ……はぁっ、すまないエスペランサ。みっともないところを見せて……」

主様メーテル、謝らなければならないのはわたくしの方ですわ。必要なこととはいえ、主様メーテルの心に多大な負荷をおかけし、お詫び申し上げますわ。ですが主様メーテル、残念ながら戦はまだ始まったばかりでございます。わたくしもより一層サポートいたしますゆえ、いましばらく耐えていただきたく存じます』

「わかってる……ここで僕もしっかりしなきゃ」


 リクレールは口を漱ぐため、皮の水筒から水を一口含んで、胃液をぶちまけたところの上に吐き出すと、何事もなかったかのような態度で兵士たちのところに戻っていった。

 ただ、その異様な雰囲気は隠しきれるものではなく、ヴィクトワーレが心配そうに傍に寄ってきた。


「リク、その……」

「トワ姉、言いたいことは分かってる。でも今は……踏ん張らせてほしい。ここで踏ん張れなかったら、姉さんの仇を討つなんて、夢のまた夢だから」

「……わかったわ。私はリクを信じる、これ以上無茶をするなとも言わない。でも、絶対に死なないでね」

「うん、約束する」


 リクレールはヴィクトワーレにそう告げると、すぐに次の作戦を指示した。




 一方そのころ、魔族軍別働隊の中心となる部隊を率いているオークの武将オルグは、そこそこの規模の村と町の襲撃を終えて、次はどの村を襲うかを仲間たちと共に話し合っていた。

 彼らは略奪品を満載した荷車をいくつも伴っており、かなりの成果を上げたことが一目見てわかる。


「次はどの村にしやすか、オベルの兄貴」

「どーすっかね、めぼしい村や町はあらかた奪い尽くしたしな。ちと遠いが、あの丘を越えた先にいくつか村があったはずだ、どうせニンゲンどもの軍隊はいねぇんだ、城を包囲してるやつらの分まで奪ってきてやろうじゃねぇか!」

「ガッテンだ兄貴! しかし、あっちの村に行った連中、やけに戻るのが遅せぇな」

「言われてみりゃ確かに、あんな小さな村ならもうとっくに潰し終わってるはずだが」


 いくつか分割した小規模な部隊がいくつかまだ戻ってこないことをいぶかしがるオルグ達。

 するとそこに、見張りをしていた魔族兵が駆けつけてきた。


「隊長っ! ニンゲンの軍がこっちに向ってきましたぜ!」

「ニンゲンの軍だと? こっちにか? なんかの間違いだろ?」

「いんや、あれは確かにニンゲンの軍です、間違いねぇです!」

「ちっ、いったいどこから湧いてきやがったんだ」


 状況的にいるはずのない人間の軍が現れたと聞いて、半信半疑になりながらも見張りとともに近くにある高い木に登って様子を伺った。

 すると、見張りが言った通り、アルトイリス軍が魔族軍のいる方に向けて進軍してくるのが見えた。


「なるほど……確かにニンゲンの軍だが、なんだ、あんだけぽっちか。俺たちよりすくねぇじゃねぇか! しかも見ろよ、あの格好。まるで寄せ集めだぜ? ガハハハッ!」


 アルトイリス軍の姿が見えると、オベルたちはゲラゲラと笑い始めた。

 たしかに見た限りではアルトイリス軍の装備は、以前戦った騎士団に比べてかなり劣っていた。

 中には馬にまたがり立派な鎧と武器を装備した部隊もいるようだが、数は少なかった。


「あんなの、全員でつっこめば楽勝だぜ! 昼飯前の運動だ、戦利品ついでに手柄が欲しい奴はオレについてこい!」

『オーッ!!』


 オベルはそう叫ぶと、下にいる仲間と共にアルトイリス軍の本隊の方へと走り始めた。


「リクレール様、どうやら敵兵もこちらに気が付いたようです」

「さっきまでは不意打ちだったから一方的に攻撃するだけでよかったけど、今回は流石に正面から受け止めるしかない。盾を持っている兵は前へ」

「気張れよ! お前たちが崩れたら新兵どもじゃ耐えられないからな!」


 リクレールとシャルンホルストは、自らの直属兵を前面に出し、彼らに盾を構えさせ防御姿勢をとった。

 直属兵ゆえに、貴族たちから招集した有象無象よりかは練度も装備も上だが、いかんせん数が少ないため、まずは突撃を受け止めて勢いを殺すことを優先する。

 そしてついに、魔族軍とアルトイリス軍の正面衝突が発生した。



キャラクターノート:No.014


【名前】オベル

【性別】男

【年齢】8

【肩書】魔族軍部隊長

【クラス】オーガ戦士

【好きなもの】レスリング

【苦手なもの】野菜


※オーガ族は成長が早く、だいたい人間の3倍の速さで歳を取ります。

満1歳ですでに戦えるようになり、5歳で成人するとされています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ